感謝の気持ちと悔いを残さない努力で王座をつかんだ

久米鷹介さん(2007年3月 体育学部 体育学科卒)
総合格闘技道場アライブ所属 第7代 ライト級キング・オブ・パンクラス

 現在、ライト級キング・オブ・パンクラスとして3度の防衛に成功しています。私が王座を獲得し、防衛できているのは、支えてくださったみなさんのおかげとしか言いようがありません。王座を獲得するまでは気が遠くなるほどの長い道のりで、苦労も多かったので当時を振り返ると、今でも涙が出てきます。

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サッカー少年として成長、柔道を本格スタートしたのは高校から

 総合格闘技のファイターというと、さぞ小さいころから柔道や空手など武道をしていた格闘技エリートというイメージがあるかもしれませんが、私は違います。父が柔道をしていたので、町の道場で汗を流したことはあったものの、実は小・中はサッカー少年!ゴールキーパーとしてプレーしていました。

 プロの格闘家としての身体面・精神面でのベースとなったのは、高校時代から本格的に始めた柔道です。進学したのは公立高校で、戦績は県大会どまり。ただ、この柔道部で私にとってかけがえのない人との出会いがありました。柔道の技だけではなく、私の人としての礎を築いてくださった恩師です。礼儀や人間性について指導する際も、上からの押しつけのようなことは一切なく、先生のこの姿勢が、その後の格闘家人生での私のモットーである「相手をリスペクトする」につながっていると思います。

体育学部に入学。でも、私はスポーツエリートではなかった。

 高校卒業後、体育学部(現:スポーツ科学部)に入学しました。いわゆるスポーツ推薦で入学してくるトップアスリートもいる中、私は一般入試での入学でした。そうです、私は決してスポーツエリートではなかったのです。柔道も、高校3年間でピリオドを打っていました。大学入学後、現在の所属先である総合格闘技道場アライブの門を叩いたのも、「運動不足を解消したいし、格闘技にも興味がある」という、何とも気軽な理由がきっかけでした。今の私のファンの方からすると、信じられないかもしれませんが......。

 当時はまさかプロの格闘家になるなんて思ってもいませんでしたが、アライブで素晴らしい先輩方やコーチに囲まれて過ごすうち、少しずつ格闘技への姿勢や思いが変わってきました。体育学部では、全国レベル・世界レベルで活躍するような素晴らしいアスリートたちがすぐそばにいて、自分と同世代の彼らの活躍は良い刺激となっていました。

プロの格闘家としてデビュー。タイトル奪取までは長い道のりに

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 2006年、中京大学在学中にアマチュア修斗全日本選手権で優勝。プロになったものの、大学卒業後はいったん一般企業に就職しました。しかし、格闘技に専念するべく、覚悟を決めて退職。その後修斗、パンクラス、韓国のプロ格闘技団体であるROAD FCとプロ格闘家としてのキャリアを積んでいきました。特に印象深いのは韓国のROAD FC時代です。ROAD FCでは、タイトルマッチすべてに敗戦。ある試合では一瞬「これは勝てるな」と思ってしまい、その隙を相手に見透かされた瞬間、技を決められ負けたことがあります。韓国の選手は「勝つ!」という気持ちがとても強く、ものすごい気迫となってこちらに伝わってきたのが印象的です。そこで格闘技をはじめ、スポーツはやはりメンタルが勝負を左右すると身をもって実感。そして、「相手に勝つのではなく、自分に勝たないとダメだ」と、ようやく大切なことに気づくことができました。

5度目のタイトルマッチ 入場時に感じた意外な感情

 2015年から再び日本を拠点に移し、2016年にタイトルマッチが決まります。私にとっては日韓通じて5度目のタイトルマッチです。ここでも周囲の支えが大きく私を前進させてくれます。先輩が相手選手の試合内容を分析したデータをくださったり、普段しているパーソナルトレーナーとしての仕事を、試合に向けての準備ができるようコーチが代行してくださったり。自分の時間を削ってまで私に協力し、尽くしてくださることに驚きと感謝、喜び、嬉しさ。それらすべてが入り混じった感動で心が震え、「自分に負けていられない」とあらためて奮起し、試合に向けて自分を良い意味で追い込むことができました。

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 試合当日、入場の時にこれまで味わったことがない感覚を味わいました。それは緊張でも相手を倒すという闘志でもなく、「感謝」で心がいっぱいになったのです。「ここまでやってきたのだから勝てる」という、予感めいたものも感じました。以前ROAD FCでの試合で「これは勝てるぞ」と思って油断し逆転負けを喫した時とは、その勝利の予感は全く違っていました。結果、負けても悔いはないと思えるほどに自分の全力を出し切って、試合に勝つことができました。

「ここまでやったのだから悔いはない」そう思える努力こそが大事

 ようやくチャンピオンになれた、という自分の肩書きへの喜びより、周りの方からの長年の支えに、ベルトという形でやっと応えることができたという喜びでいっぱいでした。当時私は31歳、遅咲きのチャンピオンです。「ダイエットしたい」レベルの気持ちで門を叩いたアライブ。決してスポーツエリートではなかった私。そんな私の可能性を諦めず、私よりも信じてくれた周りのみなさんがいなければ、ベルトを取ることはもちろん、格闘家としてのキャリアもどうなっていたかわからないほどです。本当に、本当に周りのみなさんがいなかったら......、チャンピオンになれた時のことは、何回思い出しても涙が出なかったことがありません。

 学生のみなさんは、今中京大学で、スポーツに限らず、研究や勉強に打ち込んでいることと思います。その中で、きっと苦労や大きな壁にぶつかることもあると思います。でも、絶対にそこで簡単に諦めないでほしいとお伝えしたいです。

 私も学生の頃は気づけなかったのですが、困難を乗り越える過程こそが、自分を成長させてくれるからです。継続は力なりという言葉は本当です。すぐに諦めることなく、覚悟を決めてその困難と向き合ってください。もしかしたら、どれだけ努力しても良い結果が出ないかもしれません。それでも、「ここまでやったのだから悔いはない」と思えることが、何よりも大事です。「大した努力もしてないけど勝てちゃった」というような勝利より、必ずあなたを成長させてくれる負けもあります。どうか悔いのない大学生活を送ってください!

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2022/03/07

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