今、自分に出来ることを実践しよう

河合徳之さん(1987年度 体育学部 体育学科卒)
公益財団法人日本オリンピック委員会 アーチェリー競技専任コーチングディレクター

 静岡県内の高校で教職に就いていましたが、2年前に休職をして、アーチェリー競技の専任コーチングディレクターとして2020東京オリンピック、次世代選手育成指導の活動をしています。具体的にはナショナルチーム選手に対しては監督・コーチ陣と選手との連絡調整や取材対応等、ユースチームではチームリーダー(監督)として海外戦帯同・年間合宿計画や合宿時での教育プログラム立案と講師との連絡調整です。

 私がアーチェリー競技と出会ったのは高校1年生の時。10月から試合に出場しましたが、最初は試合に出てもワースト5にいる状態でした。しかし、諦めずに練習を積み重ね、冬季練習で歯車が合い始めた感じで少しずつ上達し始めました。きっかけは18mのインドア競技大会で、先輩たちを差し置いて個人2位になった時からでした。そこからはこれまでのワースト5が嘘のように矢が中心に集まるようになりました。高校2年生からは静岡県内でトップ5に入るまで上達しました。高校2年生の夏に初めて全国大会に出場し、団体準優勝、個人10位。3月の全国高校選抜大会で個人優勝、3年生で出場した全国大会で個人2位、秋の国民体育大会少年男子で個人優勝することが出来ました。

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学生時代の経験が今の自分の基礎

 いくつかの大学から勧誘がありましたが、私は将来指導者になりたいという気持ちがあり、中京大学に進学しました。

 大学1年生の思い出はとても印象に残っています。私は豊田市保見町にあった学生寮「松風寮」で一年間お世話になりました。約40名、いろいろな地方から仲間たちが集まり、厳しくも楽しい毎日でした。入学式後にあった体育会の新入生歓迎会で、新入生を代表して檀上で挨拶をさせて頂いたことを鮮明に覚えています。大学の建学の精神「学術とスポーツの真剣味の殿堂たれ」は今も心に残っている言葉です。我々が最後の松風寮生で一年間のみの生活だったのですが、寮の最後の夜は寮長、副寮長の先輩方を含めてドンチャン騒ぎをしたのを覚えています。翌日、寮生お揃いのトレーナーを着て、集合写真を撮りました。

 大学1年生の頃は皆さんの中でも経験されている方がいらっしゃると思いますが、生活環境の変化や1年生としての部活動準備、片付け、厳しい練習で大変な毎日でした。運悪く、そういう時に限ってスランプに陥ってしまいます。そんな時に励ましてくれたのは、寮や同じ部にいる仲間でした。1年生の終わり頃から徐々に調子を取り戻し、2年生のインカレで個人2位(優勝は現日体大教授の山本 博 先生)、3年生で初の日本代表となり、韓国・ソウルで行われましたアジア競技大会(1986年)で団体銀メダル獲得、帰国後のインカレで個人優勝することが出来ました。

 卒業後、7年程選手と指導を兼ねて高校生と一緒に練習をしていましたが、右肩を痛めてしまい、競技生活にピリオド。その後は年に数回程弓を引く程度で、試合には参加せず指導者として専念し現在に至っています。

コーチの基本はコミュニケーション

 コーチとして心掛けていることとして3つあります。1つ目は選手たちとの積極的なコミュニケーションです。特に初めて顔を会わす選手にとってみれば、「一体このコーチはどんな人なんだろう?」と疑問と不安から入ってきます。こちらから積極的に声掛けをすることによって、少しでも早く場に慣れさせて行きます。話しやすい環境づくりが、問題解決のきっかけやモチベーション維持に役立ちます。

 2つ目はコーチ陣で綿密なミーティングを行います。選手は遠征中、試合で成績を残せるかという不安に加え、試合時間に合わせた体調管理や食事時間など様々な要素がプレッシャーとなってきます。これらの不安要素をできる限り早く取り除くために、遠征前から選手個々の状態を報告し合います。また海外戦ではよくタイムスケジュールが変更となります。早めに情報を得て、コーチ陣で情報共有をし、選手へ伝えています。

 3つ目は遠征中、コーチは笑顔で元気でいることです。"病は気から"と言いますが、ネガティブな気持ちや不安要素は感染力が非常に強いです。試合前、選手は自分を奮い立たせて、「やってやろう!」という気持ちに持っていこうとしています。そこにコーチがムスッとしていたら、選手はどんな気持ちになるでしょう。せっかく気持ちを集中させようとしているのに、余分なことにエネルギーを注ぐことになってしまいます。笑顔で元気でいることは選手に安心感を与え、思わぬ力を発揮してくれることがあります。

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アジアカップ・バンコク大会(2020年3月 タイ・バンコク) U20・U17ナショナルチームでの講習会(2020年12月)

残念ながら報われない努力はある。でも、無駄な努力はない。

 2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で、活動や生活様式が一変してしまいました。アーチェリー競技の東京オリンピック代表選手選考会は2020年3月に二次選考会が行われ、1か月後に最終選考会を実施する予定でした。緊急事態宣言、感染拡大の影響により、東京オリンピックが1年間延期となり、それに伴い、最終選考会も1年後に延期されました。また、4月以降、各国で実施予定だった海外戦が中止となり、選手も約2か月間練習ができない状況でした。全日本アーチェリー連盟の本格的な活動再開は10月後半からです。久しぶりに見た選手たちの顔は、本当に嬉しそうでした。

 現役学生の皆さんも2020年は学業や様々な活動で制限を受けて、大変な時期を過ごされたことでしょう。今もその延長線上にいるかもしれません。一生懸命頑張ってきたのに、どうして自分だけ、と思ったことが多々あったことでしょう。でもちょっと視点を変えてみてください。今、自分で出来ることは何ですか?何が出来ますか?ピンチをチャンスに変える力が中京大学の学生の皆さんにあります。あんな時代を乗り越えたんだから、と思える時がきっと来ます。今、自分に出来ることを是非とも実践してください。

2021/01/12

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