経営学部川端勇樹教授 研究成果を著書にまとめました
Promoting Regional Industries Through Cross-Sectoral Collaborations

 経営学部の川端勇樹教授は、異分野間連携の促進を通した地域産業の振興をいかに進めるかについて、ドイツの複数の州の取組みにを、5年に渡る現地調査によるケーススタディを通して考察した科研費研究の成果として著書にまとめました。本研究は科研費研究(基盤研究(C):19K01817)「地域新産業の振興に向けた異分野間連携を促進させるためのマネジメントに関する研究」の成果となります。

タイトル:Promoting Regional Industries Through Cross-Sectoral Collaborations: Regional System, Management, and the Management Body
著者:川端勇樹(中京大学 経営学部)
出版年月:2023年10月
出版社:IGI Global (アメリカ)
印本およびE-Bookによる出版(E-Bookはオープンアクセス:以下URL)
https://www.igi-global.com/gateway/book/313925&redirectifunowned=true

概要
研究の背景および問題意識(我が国の地域産業の振興に向けた有益な研究)
人口高齢化が進む我が国では経済成長の鈍化や地域産業の衰退が続き、さらに新興国の追い上げ等で従来産業の競争力が低下していくという厳しい状況が続いている。この克服には各地域で異分野間連携を進め、イノベーションによる産業構造の高度化を通して競争力の高い新産業の振興に取組むことが不可欠である。同様の状況は他の先進諸国でも経験しており、1990年代の不況により欧州の病人とまでいわれたドイツでは、その克服策の一環としてクラスター政策が各州政府により進められてきた。このねらいは、従来の枠組みを越えた域内外の様々な業種の企業、大学・研究機関等による異分野間連携を通してイノベーションを促進し、地域の潜在力を活かした付加価値の高い事業創造を推進することである。本研究では地域産業の振興に向けた異分野間連携の成立をいかに促進するかという研究テーマを検討するために以下の問いをたて、医療機器分野におけるドイツの複数州(ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州、バイエルン州、バーデン=ヴュルテンベルク(BW)州)の取組み事例を対象にケーススタディを実施した。

問1 競争力のある地域新産業の振興に向け、異分野間の自己組織的な組織間連携の成立を促進させるために、いかなる「地域システム」を誰によってどのように構築するか?
問2 異分野間の自己組織的な組織間連携の成立へのプロセスはいかなるのもので、その促進のための「マネジメント」は、誰が・どのように推進するか?
問3 同マネジメントを推進する「事業体」に求められる組織能力はいかなるもので、どのように構築・再構築するか?

ケーススタディによる理論構築
 本研究では、先行研究のレビューに基づく強固な理論的基盤のうえで研究テーマにおける主要概念で構成する概念モデルを提示し、「どのように」「なぜ」の問いの解明に取組んだ。これにあたり、Yin(1994)等を参照し事例研究の方法で研究を進めた。先行研究の精査では、上述「問い」に対する統合的な理論的枠組みの構築に向け、概念と自身が構築しようとする理論的枠組みとの関係を検討し、一つ一つの概念的・操作的定義を明確にする。そのために、広くバランスの取れた先行研究調査に基づくレビュー論文を完成させ、本研究を進めるための概念モデルを提示する。事例研究におけるデータは複雑な社会プロセスへの洞察を可能にする質的データを収集するため、公開資料、関係者から入手した資料、およびインタビューにより収集し、出来事の因果関係を明確にする質的な分析手法を用いた。事例は、自治体等が競争力のある地域新産業の振興を目的に、医療機器分野における中小をはじめとする企業、大学等研究機関、医療機関、ユーザー団体等による自己組織的な組織間連携の促進に成果を挙げた複数の事例を対象とした。これら事例の比較分析により、研究テーマに基づく上述「問い」を解明し、構成概念妥当性、内的妥当性、外的妥当性の高い理論構築および実践的示唆を導き出すことを目指した。

事例研究は、新興国の追い上げや高齢化等で日本と同様の経験をもつドイツのNRW州、バイエルン州、BW州を対象とした。同国では医療機器製品の輸出比率が約65%と高く年々増加傾向にある。例えばNRW州では重化学工業の衰退に対応した新産業の振興に向け、州政府と域内の産学官関係者との相互作用を通して地域をあげた支援体制を構築した。そのうえで企業、研究機関、医療機関の関係者に加え、患者代表や健康保険の専門家、承認権限者を含む複合的な連携の構築を支援し、患者・ユーザーに向き合う新製品開発を推進している。これらの地域を対象とした事例研究により、地域新産業の振興に向けて、いかに自己組織的な異分野間連携を一定の方向性に推進するためのマネジメントが展開されたかについて考察した。

研究の成果(学術および実践的価値)
 競争力のある地域産業の振興に向けて、多様な主体間で自己組織的に形成される異分野間連携を促進することは不可欠であるが、複雑性に特徴づけられるこのプロセスを促進させるには従来の階層構造を特徴とするマネジメントのアプローチでは対応することができず、有効なマネジメントについての実証に基づいた研究が十分ではない。本書では、地域産業の振興に向けた多数の自律的で多様な主体間の異分野間連携の成立に向けていかなる取組みが求められるかという研究テーマについて、1. 異分野間連携を通した競争力のある地域新産業の振興に向けた地域システムの構築と運営、2. 変革マネジメントの視点を適用した自己組織的な異分野間連携の促進のためのマネジメント、3, マネジメントを実施する事業体に求められる能力とその構築・再構築に着眼して解明した。本書の研究は、研究テーマにおける統合的な理論構築に加え、異分野間連携の促進を通した地域産業振興というダイナミックな分野の課題に取組む産学官の関係者に新たな視点に基づく実践的な示唆を提供している。
(出版社による著書説明)
In the realm of regional industrial development, academic scholars often find themselves grappling with a complex dilemma; how to effectively navigate the complex landscape of cross-sectoral inter-organizational collaborations to catalyze the emergence of vibrant regional industries? Traditional management approaches, characterized by hierarchical structures, frequently fall short when confronted with the intricacies of these collaborations, which involve a multitude of autonomous and diversified entities. The need for a fresh perspective in this dynamic field has never been more evident.
Promoting Regional Industries Through Cross-Sectoral Collaborations: Regional System, Management, and the Management Body is a transformative book offering an innovative and comprehensive solution to the challenges posed by regional industrial development. Its core mission is to provide a robust theoretical framework that addresses the critical question of how to manage and facilitate cross-sectoral collaborations effectively. The book guides scholars and practitioners on a journey that creates a management approach designed to construct and operate a regional system conducive to self-organizing cross-sectoral collaborations. Drawing from rich literature and real-world case studies, it outlines a conceptual model that revolutionizes the approach to building and operating regional systems, ultimately redefining the management landscape.

(ソース)IGI Global https://www.igi-global.com/gateway/book/313925&redirectifunowned=true

研究成果の日本経済・産業における実際的な課題解決への応用への期待
 本研究では、自己組織的な異分野間連携の成立という複雑性に特徴づけられる対象を、地域産業の振興に向けていかにマネジメントするかについて考察した。複雑なプロセスを促進するためのマネジメントについて、パフォーマンスの高いドイツの複数地域を対象に事例研究および比較分析による検証を行うことによる、研究テーマに関する信憑性の高い理論構築という成果を得た。この成果を基に、実社会においては地域を挙げた異分野間の組織間連携の促進により、成長潜在性の高い医療機器関連分野でいかに競争力のある地域新産業を振興していくかという課題に対し、同産業の特色もふまえた実践的で有益な提言ができたと認識している。また応用面では、オープンイノベーションの重要性がますます高まるなかで、他分野における競争力のある地域新産業の振興についても域内外の様々な背景をもつ産学関係者が一定の方向性に向けて自己組織的な異分野間連携を促進するための有効な視点を、国・自治体の政策担当者、推進する機関、連携に参画する産学関係者に提供することで、現代の日本経済・産業における実際的な課題解決に向けた多くの可能性を持つ研究である。

関連記事

中京大学研究・産官学連携 教員の本

2023/11/27

  • 記事を共有