「彼女つくらないの?」
 「いいと思う女の子にはみんな彼氏がいるんだよ」

 「彼氏と結婚の話とか出ないの?」
 「彼氏がまだ全然その気がなくてさ」

 皆さんは、友人とこのような話をしたことはありませんか。

 どこにでもあるような、気が置けない友人同士でする恋愛トーク。

 実は、この何気ない会話が、性的マイノリティの存在を無視したものになっていることに気づく人は、どれくらいいるでしょうか。

 もしかしたら「彼女つくらないの?」と聞かれた男性は、本当はゲイなのかもしれません。

 もしかしたら「結婚まだなの?」と聞かれた女性は、もしかしたらレズビアンで、パートナーは実は女性だけれど、"彼氏"と言っているだけなのかもしれません。

 もしそうだった場合、彼・彼女らは、本来の自分を曲げて答えていることになります。

 "友人や家族、そして自分自身にすら、嘘をつき続けて暮らす。"

 時代とともに、性的マイノリティへの理解は一見急速に進んだかのように見えます。しかし、その本質はまだまだ性的マイノリティの人々が「生きやすい時代になった」と手放しでいえないのが現状です。

 日本の社会は、異性愛者、そして戸籍の性と性自認が一致する人が、性的マジョリティとなっています。そのような社会で、性的マイノリティたちは自分らしく生きるために立ち上がるか、もしくは性的マジョリティに合わせて、自分を抑圧して生きていくかの選択が迫られています。

「性的マイノリティに寛容な社会」の
根底にある無意識の差別意識

 「皆さんの周囲にも、性的マイノリティの人は必ずいます」

 風間教授はそう語ります。

 昨今の、一見「受け入れている」ように見える性的マジョリティ側の反応には、実は条件つきであることが多いのです。

 たとえば、「友だちが性的マイノリティだと知ったら?」という問いには「抵抗がない」と答える人は昔に比べて増えているそう。しかし「家族が性的マイノリティだと知ったら?」という問いには「困る」と答える人がまだまだ多いのだとか。性的マジョリティ側の『抵抗がない』『受け入れる』には、『自分と関わりの薄い他人であれば』といった条件がつき、真の受容であるとは限らないのが実情です。

 性的マイノリティに寛容な社会をめざす。一見とても良い言葉のように思えますが、この"寛容"という言葉を風間教授は批判的に論じています。「寛容とは本来、自分にとっては受け入れられない、つまり異端視する意見を認めるという意味です。つまり根底には『自分には理解できないけれど』という大前提、つまり、無意識の差別意識があると私は考えています」

当然、学内にも性的マイノリティの人はいる

 大学生に向けて性の多様性について教える意義を、風間教授は次のように考えています。

 「男女が結婚して当たり前、異性愛が当たり前」という社会で育ってきた学生たちには、本人の意志に関係なく、その社会のマジョリティ側の価値観が備わっているものです。しかし、無意識だから、悪意がないからといって、自分の行動・言動が結果的に他人を傷つけることになるとすれば、その価値観を見つめなおすのは、とても有意義なことではないでしょうか」

 「自認している性のお手洗いに行きたいけれど、大学ではそれが難しいから水分摂取を我慢している」「名前を呼ばれるときの「くん」と「さん」の呼び分けにストレスを感じる」などの相談を、風間教授が受けることも少なくないそうです。また、同性のパートナーがいることを保護者に知られ、別れるように言われた同性愛者の学生も過去にいたそうです。

 性的マイノリティの学生がおかれた厳しい現実と向き合ってきた風間教授は、教員として、そして人生の先輩である大人として、性的マイノリティの学生たちが過ごしやすい環境づくりにも注力しています。

 中京大学では2022年、性の多様性についての基本理念を採択。現在ガイドラインづくりも行われており、「性の多様性を大学側がきちんと自分事としてとらえているのは、大きな進歩」と風間教授は語ります。

まずは性的マジョリティが
自分事として性の多様性をとらえることから

 性的マジョリティが当たり前のようにできていることが、性的マイノリティにはできないことがたくさんあります。たとえば結婚も、現在の日本では異性間でしかできません。しかし、このことを「私たちは恵まれている」と思っている性的マジョリティの人はどれだけいるでしょうか。風間教授はそれを"特権"と表現します。性的マジョリティが、自身の特権に気づかなければマイクロアグレッション(無自覚の差別)を行ってしまうことにつながります。

 『性の多様性を認める』=『性的マイノリティを認める』という意味だと思われがちですが、実はそうではありません。多様性の中には、性的マジョリティも含まれます。つまり、性の多様性が受容される社会とは、すべての人がお互いを認め合う、ということです。

 風間教授が性の多様性について研究を始めた30年ほど前は、現在よりも性的マイノリティへの理解が進んでいませんでした。「なぜそんなことを研究対象にするの?と困惑されたものです」と、苦笑まじりに当時を振り返ります。「現在、そしてこの先の社会の在り方を考える際に、LGBTQのひとびとを抜きにしては考えられません。性的マイノリティの人が感じるストレスによって、学生生活、社会人生活、あらゆる場において本来の力が発揮できないのは、社会的に大きな損失です。今後、ますますグローバル化が進む社会を生き抜くためには、多様性を認め合い、柔軟な価値観を持つことが大切になるのではないでしょうか」

 風間教授が目指すのは、いったいどのような社会なのでしょう。こう問かけると、はっきりと笑顔で答えてくれました。

 「性的マイノリティも性的マジョリティも、すべての人が個性を発揮できる社会です」

 

研究者プロフィール

1967年生まれ。
中央大学卒業後、法政大学大学院にて社会学修士を取得。その後7年間NPOに携わる。その後東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程満期退学。2004年より中京大学の教壇に立つ。
日本の性的マイノリティ差別や性的マイノリティの社会運動についての研究とともに、性的指向・性自認に関する大学の取り組みや大学教員の意識や制度について調査をおこなっている。

※取材時時点

風間 孝教授
教養教育研究院

2023/11/28

  • 記事を共有