サブスク(サブスクリプション:商品・サービスの利用に対しての定額料金制)という言葉が、一般的になったのは2019年。複数の大手企業が新たなサブスクサービスを展開したことをきっかけに広がり始め、その年の新語・流行語大賞にもノミネートされました。
国内の市場規模は、近年、右肩上がりの成長を続け、2020年8,692億円、2021年は9,615億円となり、2022年には1兆円を超える見通しです。(金額は矢野経済研究所「サブスクリプションサービス市場に関する調査」ホームページより)
経営学部の中村雅章教授は「サブスク市場が急速に拡大してきたことで、利用者の期待値も上がっています。一方、企業は、利用者の満足度や達成したい目標の実現に、責任をもつことが重要になってきました。つまり、サブスク市場において、利用者と企業が目指す着地点は、カスタマーサクセス(顧客の成功)で一致していることが理想なのです」と見解を示しています。
動画、音楽などデジタル系が牽引
モノづくり、飲食系は苦戦
サブスク市場の現状
サブスク市場を牽引しているのは、動画配信(Amazonプライムビデオ、NETFLIXなど)、音楽配信(AppleMusic、Spotifyなど)、電子書籍・コミック配信(Kindleストア、LINEマンガなど)などのデジタル系サービスです。形態別には下記のように分類でき、日本国内の3人に1人が、①、②のサブスクサービスを利用していると言われています。
①定額配信サービス(動画、音楽、電子書籍・コミック、ゲーム、ソフトウェアなど)
②定額利用サービス(ファッション、家具・インテリア、家電、自動車、飲食、住宅など)
③従来型(交通機関の定期券、携帯電話料金、新聞の定期購読、公共料金など)
※③の従来型については、この記事では対象外としています。
消費者の購買行動が若者を中心に所有から利用へとシフトしてきたことを背景に、手軽に、安く、試すことができるサブスク市場は、急速に拡大しています。中村教授は「期間や回数などの縛りがなく、顧客に合わせた機能追加やアップデートなど、新しい体験の付加や新しいサービスの設計がなされている定額配信のサブスクサービスが伸びています」とする一方、モノづくりや飲食等の定額利用のサブスクサービスについては、「モノを販売する従来の延長線上であったり、サービスレベルがあまり変わらない場合が多く、利用者の心を捉えきれていないようです。自動車のサブスクはローンの置き換えに近く、また、飲食のサブスクは割引サービスであることが多いためです。結果的に不採算事業となり、サブスクから撤退する企業も見られます。購入とは異なる特別感の提案が不足しているため、苦戦を強いられているのでしょう」と分析しています。
「店頭購入及びサブスクリプション・サービスに関する意識調査結果(2021年9月15日)」
(消費者庁)をもとに作成
手厚いサービスに流され、
本来の目的・価値を見失わないように
利用者へのメッセージ
企業間の競争が激化しているサブスク市場では、多種多様なサービスが溢れていますが、利用者の満足度はどうでしょうか。消費者庁の「サブスクリプション・サービスに関する意識調査結果」(2021年9月15日)によると、「満足している」が49.8%、「満足しているところもあるが不満なところもある」は48.7%、「概ね不満」が1.5%となっています。不満な理由は、「思っていたよりも利用頻度が低い(40.9%)」が1位、「プランの変更や解約のための手続が煩わしい(27.1%)」が2位で、「サービスの使い勝手が悪い(11.5%)」、「商品・サービスの質が低い(6.1%)」などの声も上がっています。また、無料期間内に解約を忘れ、自動的に有料サービスに移行されたなど、解約トラブルも多いようです。
利用者は、今後、サブスクとどのように向き合うのがよいのでしょうか。中村教授は「企業は競争が激化する中、一層、手厚いサービスを展開していきます。満足度もさらに高まっていくでしょう。利用者にとっては有り難い反面、便利さに流され、あれこれと必要以上のサービスに手を出し、本来の利用目的や利用価値を見失う懸念もあります。商品・サービスの利用に際しては、自分なりの目標と、そこに向けて使いこなす姿勢を忘れないで欲しいですね」と述べています。
鍵はロイヤルカスタマー育成
企業やブランドに愛着・信頼もつ顧客へ
企業へのメッセージ
企業の競争舞台が売り切りモデルからサブスクモデルへと転換していくのに伴い、企業にとっては、既存のビジネスモデルが通用しない時代が到来しつつあります。中村教授は「事業構造を変革するチャンスでもあります。鍵を握るのは、様々な工夫と継続的なアプローチにより、既存の顧客をロイヤルカスタマーへと育成する取り組みです」と話します。ビジネスの顧客は、新規顧客、既存顧客、潜在顧客、優良顧客などに分類できますが、そのなかでも、売上貢献が高く、その企業やブランドに愛着や信頼を寄せてくれる最上位の顧客、それがロイヤルカスタマーです。「ロイヤルカスタマーは長期的に安定した顧客で、自主的に新規顧客を呼び込んでくれるなど、好循環が大いに期待できます」と説明します。
既存の顧客をロイヤルカスタマーへと育成する取り組みについて、中村教授は「新しい体験を提供していくことで継続的に利用してもらい、個々のニーズを満たすことで顧客の幸せや夢を叶えていく。企業は、製品やサービスを販売して終わりではなく、顧客がそれを使用して得られる体験価値の向上と成果の実現に責任を持つというカスタマーサクセスの考え方こそが重要なのです」と力を込めます。「ビジネスの本質は顧客との関係維持(リテンション)であるともいえます。企業は、サブスクサービスにおいて顧客の利用状況をモニターし、積極的に提案やアドバイスを行うなど顧客と伴走することで、成功の実現まで見届けることが必要です。今こそ、カスタマーサクセスとリテンションの考え方を積極的に取り入れ、自社の事業モデルを果敢に変革してみましょう」と企業にエールをおくっています。
研究者プロフィール
1958年生まれ。
名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程を修了後、名古屋経済大学の助教授などをへて、1995年より現職。南オーストラリア大学非常勤助教授を歴任。
『戦略的視点』と『デジタル活用』という2軸からのアプローチで、「顧客だけでなく、従業員や取引先など、すべての人が喜ぶ仕組みづくり」というテーマに挑む。
※取材時時点
中村 雅章 教授
経営学部
「利用者、企業の目指す着地点は」