未来のコンピュータ
人工知能時代に向けて

 

 人口減少が進む日本においてさらなる成長を目指すには情報技術の活用が重要となる。ChatGPTに代表される人工知能(AI)技術やシミュレーション技術などさまざまな情報技術の活用が期待されるが、これらに必要な莫大な計算のためには大規模なコンピュータが必要となる。しかし、人類の総消費電力に占めるコンピュータの消費電力の割合は拡大傾向にあると推定されており、少ない電力で多くの計算ができるようにコンピュータの電力効率を高めることが求められている。

 例えば、スーパーコンピュータは大規模化が進んでおり、1台のスーパーコンピュータのために発電所が必要になるとする予想がある。また、AI向けのコンピュータの消費電力はすでにいくつかの国の総消費電力を超えているという見積もりもある。使用できる電力の限界によりAI技術活用の限界に到達することも考えられる。

 現在のコンピュータの頭脳として使われるプロセッサは半導体であるシリコンでできている。薄いピザのような直径300ミリメートルのシリコンの円板に回路を作りこみ、キャラメル程度の大きさに切り分け、いくつかパッケージに組み込んだものがコンピュータに搭載されている。計算の主役のトランジスタや配線は10ナノメートルレベルの大きさである。1か月に爪が3ミリメートル程度のびるとすると、爪は秒速1ナノメートル程度でのびる計算になる。ほんの短い間にのびる爪の長さ程度の構造物から現在のプロセッサは成り立っていることになる。

 さらに微細な加工技術、より進んだパッケージ技術で計算能力と電力効率の向上を進めることが今後もますます求められるが、徐々に難易度は高まっていく。そこで、現在とは異なる動作原理の集積回路や計算方式を模索する動きが出てきている。

 我々が現在取り組んでいるのは超伝導体であるニオブを用いた集積回路デバイスである単一磁束量子回路である。絶対零度に近い温度で動作させる必要があるが、現在の半導体集積回路より一桁以上高い数十から百ギガヘルツ程度のクロック周波数で動作し、消費電力も低いことが特徴である。半導体の集積回路では情報の「1」と「0」を電圧の高い・低いで表現するのに対し、この技術ではパルス状の電圧の有無で表現する。実用的なプロセッサの開発に向け、回路設計のためのソフトウエアやプロセッサの設計にも注目が集まり、アメリカや中国でも大規模に研究が推進されている。

 

 コンピュータは人間と違い計算を間違わないことが取り柄と考えられているが、最近では誤差が生じることを許容して小さい回路でかけ算などを計算する方法がAI向け回路で注目されている。この方法では、たとえば2進数で数値を表現するのではなく、0と1からなるビット列の中の1の出現確率で数値を表現して計算に使用する。

 このような新しいデバイスや新しい計算方式はすべてのコンピュータの用途に適するとは言えないが、AIの処理に対して省電力で高性能なコンピュータの実現が期待できる。

【略歴】

鬼頭 信貴(きとう のぶたか) 中京大学工学部准教授

専門分野:大規模集積回路設計技術、名古屋大学大学院博士後期課程修了 博士(情報科学)、1981年生まれ。

鬼頭先生 顔写真 .jpg

  

2024/06/21

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