「協力雇用主」への理解・協力を
中小企業が支える再犯防止

 刑期を終え刑務所を出所した者など(以下では「刑務所出所者等」という)が再犯を犯してしまう確率がどの程度かご存知だろうか。令和5年版犯罪白書(なお、以下で示すデータも同書による)によれば、令和4年の入所受刑者人員のうち56.6%が再入者である。このように再犯による入所受刑者が半分以上を占めており、再犯を行わないように彼らを支援し社会復帰させることが如何に重要であるかを皆さんにも知っていただければと思う。
 再犯の防止に当たっては、刑務所出所者等が安定して自立した生活を送れるように生活環境を整えることが必要になる。そのためには、とりわけ、生活の基盤となる収入源を得られるように就労先を確保することが重要な課題となってくる。実際に、令和4年の再入所者のうち男性に関しては71.5%、女性に関しては86.8%が犯行時に無職であり、出所後に安定した仕事に付けなかったことが再犯を行う原因の一つになっていることが示唆されている。
 では、国が刑務所出所者等すべてに仕事を用意すれば良いようにも思えるが、それは現実に不可能である。そこで、「協力雇用主」の存在が不可欠となってくる。
 協力雇用主とは、刑務所出所者等が自立した生活を送れるように、前科・前歴の存在を承知のうえで積極的に刑務所出所者等を雇用しようとする事業者のことを指す。保護観察所を通じて協力雇用主として登録を行い、専用求人に申込みを行うことで、刑務所出所者等の紹介を受けることができるようになる。協力雇用主として刑務所出所者等を一定期間継続して雇用することで、協力雇用主には、刑務所出所者等就労奨励制度により一定の奨励金が支給されるほか、公共事業の入札において一定の優遇措置を得られるというメリットも存在している。
 協力雇用主への登録は年々増えており、令和4年10月1日現在では、25,202社の協力雇用主が登録されている。しかし、そのうち実際に刑務所出所者等を雇用しているのは1024社にとどまっている。刑務所出所者等を雇用することに対するほかの従業員の嫌悪感や、刑務所出所者等の雇用を継続していくことへの雇用主の不安感が背景にあるものだと考えられる。
 そこで、国もこのような事業者側の不安を払拭してもらうために、雇用中に刑務所出所者等により被った損害を補償する身元保証制度や、試験的に刑務所出所者等を雇用すると支給金が出るトライアル雇用制度などの支援制度を拡充することで対応してきている。
 もっとも、刑務所出所者等に対する社会的なイメージからすると、このような支援制度があったとしても、その採用を躊躇してしまう感覚も理解できる。それでも、刑務所出所者等は罪を償い、社会に戻ってきた「同じ人間」であるという認識を改めてもっていただきたいと思う。刑務所出所者等の社会復帰を支えることは、再犯を減らして社会の安全を確保することにもつながっていき、その社会的意義も大きい。
 協力雇用主の大半は、従業員100名未満の事業者であり、この制度は中小企業によって支えられている。刑務所出所者等の円滑な社会復帰のために幅広い業界の事業者の方々に協力雇用主制度へのご理解とご協力をお願いしたい。

【略歴】

山田峻悠(やまだ たかはる)。
中京大学法学部講師。
刑事訴訟法。
中央大学大学院法学研究科博士課程後期課程修了。博士(法学)。
1989年生まれ。

(中京大学)山田峻悠先生顔写真.jpg

  

2024/01/25

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