自動運転車の実装への課題
車と人との協働による運転

 2019年に道路交通法と道路運送車両法が改正され、2022年に道路交通法が更に改正され、自動運転車の社会実装のための法整備が進められている。政府は、2025年度までに、自動運転車を用いた交通サービスを多様なエリア、多様な車両に拡大し、50か所程度に展開することを目標としている。自動運転車が社会実装されていくために、法整備に残された課題を考えてみたい。
 自動運転車は、バス・タクシー・トラックのドライバーの深刻な高齢化・人手不足への対応策として期待されている。職業ドライバーの高齢化・人材不足は、深刻である。例えば、バスドライバーの平均年齢は全産業平均を約10歳、タクシードライバーの平均年齢は全産業平均を約17歳上回っている。また、トラックドライバーの有効求人倍率は全職業平均の約2倍であり、人手不足が年々深刻化している。これら職業ドライバーの高齢化・人手不足への対応策として期待されているのが自動運転車を用いた交通サービスである。
 しかしながら、現状の技術を前提とすると、自動運転システムのみで出発地点から目的地点まで走行するのは難しく、実証実験では車内の乗員が対応しなければならない場面がある。自動運転の技術は、近年急激に進化していっているのは間違いない。しかしながら、歩行者、自転車、従来型自動車等が行き交う複雑な道路交通状況下において、自動運転システムのみでは対応が難しい場面も生じ得る。例えば、横断歩道付近で人が立ち話をしているような場面において、自動運転車は、横断の意図の有無を汲み取ることが難しく、停止し続けてしまい、交通流の妨げになり兼ねないような状況が生じ得る。現在各地で行われている実証実験においては、このような自動運転システムのみでは対応が難しい場面では、車内の乗員が対応している。
 このような場面に対応しつつ経済的合理性を持って交通サービスを提供するためには、車と人との協働による運転を可能にするため、遠隔支援・操作に関する法整備が必要である。システムによる自動運転のみでは対応が難しい場面では、やはり人の関与が必要であり、車と人の協働による運転が現実的である。現在自動運転システムのみでは対応が難しい場面では車内の乗員が対応しているところ、この対応を、遠隔にいる者が担い、複数の車両を監視して必要に応じて支援・操作すれば、人材不足への対応策としてより一層大きな効果が望める。
 国連において自動運転に関する議論を行っているWP1という会議体では、自動運転に関する議論に加えて、遠隔支援・操作に関する議論が行われている。日本でも国連での議論を踏まえ、「システムによる自動運転」と「遠隔からの人による支援・操作」の併用に向けた法整備を検討していくべきである。
 自動運転車が経済的合理性を持って社会実装されるためには、車と人との協働による運転、特に遠隔支援・操作を可能にするための法整備が望まれる。

【略歴】

中川 由賀 (なかがわ ゆか)。
中京大学法学部教授。
刑事法。
慶応義塾大学法学部法律学科卒業。
1972年生まれ。

顔写真(中川由賀)オリジナル.jpg

  

2023/12/19

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