余暇時間との有意な関連はない
倍速視聴とタイパ意識

 最近の若者たちは、なるべく無駄なことをせず、物事を効率的に進めたいという意識が高いとされる。いわゆる「タイパ」(タイム・パフォーマンス、時間当たりの効用の最大化)である。日々の消費行動から仕事観まで、若者たちのさまざまな選択に、タイパを重視する意識が見て取れる。なかでも、動画コンテンツを早送りで見る倍速視聴は、タイパ意識の象徴として、しばしばメディアでも取り上げられてきた。
 この倍速視聴について、稲田豊史は次のような指摘をしている。すなわち、現代社会では、動画配信によって見られるコンテンツが急増した一方で、停滞する経済状況もあって、それらをじっくり鑑賞する時間的余裕がない。その結果、周囲の話題についていくために、あるいは、じっくり鑑賞する価値があるかを確認するために、倍速視聴がなされているのだ、と(「映画を早送りで見る人たち」光文社)。
 この指摘から、余暇時間が少ない人ほどタイパ意識が高く、結果として倍速視聴するようになる、という因果連鎖が想定できる。これを検証するために、今夏、学生たちとともに、ドラマや映画を日常的に視聴する若者を対象にウェブ調査を実施した。対象の性質上、今回の結果を若者全体の傾向と同一視することはできないが、それでも興味深い結果を得ることができた。
 結果の要点を述べると、倍速視聴とタイパ意識には強い関連がある一方、倍速視聴と余暇時間は微弱な関連しかなく、さらに、余暇時間とタイパ意識のあいだには、統計的に有意な関連がまったく認められなかった。この結果は、タイパ意識が高いほど倍速視聴をする傾向がある一方で、余暇時間つまり時間的な余裕は、意識や行動にほとんど関係がないことを意味している。
 つまり、仮説に反して、若者たちは時間的な余裕がないことで、タイパを意識せざるをえない、あるいは、倍速視聴せざるをえない状況へと、追い込まれているわけではないのだ。ならば、何が若者たちを急き立て、タイパ意識を高めているのか。現時点ではまだ、この答えとなる有力な要因は発見できていない。目下、この疑問に答えるべく、ほかの文化活動や価値意識を含めた調査を計画中である。
 ところで、「タイパを意識する若者」というと、いかにも今風の現象のように思えるが、そもそも、合理化や効率化を進めようとすることは、近代社会の最大の特徴でもある。それゆえ、新しさだけを強調していては、この現象を捉え損ねてしまいかねない。
 はたして、現代の若者が抱いているタイパ意識は、近代的エートスの単なる焼き直しなのか、それとも、それに還元できない何かがあるのか。このように、タイパ意識をより広い時間軸に位置づけることも、経験的な調査と並行して必要になるだろう。

【略歴】

真鍋 公希(まなべ・こうき)。
中京大学現代社会学部講師。
社会学(文化社会学、メディア論)。
京都大学大学院人間・環境学研究科。
1993年生まれ。

(中京大学)真鍋先生顔写真 修正.jpg

  

2023/11/09

  • 記事を共有