一人ひとりのLIFEから
地域で暮らすということ

 北海道に10年余り調査等に出かけている町がある。その町は札幌から高速道路を走らせ約2時間、町の中心部から最も離れた集落までさらに車で30分ほどかかる。町の主産業は漁業で、ハイシーズンには海産物を目当てに観光客が多く訪れる町でもある。人口は約1,800人、高齢化率は50%近い。この町で暮らす高齢者は、どのように暮らしているのか。
 町の中心部から離れて暮らすAさんは、80代まで漁業に従事し、いまは息子に船を引き継いでいる。義理の娘によると、自宅にいない時はたいてい、近所で暮らす昔なじみ3名のどこかの家で過ごしているだろうとのこと。別の集落で暮らす70代のBさんは、かぼちゃやパプリカを栽培している。町内会長を長く務め、集落での活動を積極的に行い、住民同士のつながりを強くしたいと考えている。町の中心部で暮らすCさんは80代で、お一人で暮らしている。娘は札幌におり、息子は道外にいるという。子らは仕事で忙しく、買い物や雪かきなど、必要に応じて顔をみせる程度である。生まれた時からこの町で暮らしており、顔見知りは多い。
 2010年この町で実施したアンケート調査(20歳以上の男女、N=422)では、「今後も現在の住まいで住み続けたいか」の問いに、57.4%が「住み続けたい」と回答し、35%が「どちらともいえない」、7.6%が「住み続けたくない」と回答した。クロス集計表の独立性の検定では、年齢が高いほうが「住み続けたい」、居住年数が短いほうが「住み続けたくない」、生活満足度が高いほうが「住み続けたい」で有意の結果となった。2012-15年に実施した、一人暮らし高齢者に対する調査(N=118)では、同じ質問に対して73.7%が「住み続けたい」と回答し、18.6%が「どちらともいえない」、7.6%が「住み続けたくない」と回答した。やはり高齢になると居住年数も長くなり、「住み続けたい」と考える人が多くなるのだろう。
 では、「住み続けたい」と考える全ての高齢者が、この町に住み続けることが出来るだろうか。この町の公共交通機関はバスのみであり、さらには中心部より先の路線廃止が決定している。中心部以外の集落では、自家用車が運転できなくなった場合、日常的な買い物もままならず、移動販売車や家族等に頼ることになる。また町の医療・福祉は、中心部にある町立診療所、地域密着型特別養護老人ホーム、そして通所介護と訪問介護の事業所が各1か所で担っている。病気や転倒等をきっかけに、何らかの支援が必要となった場合、住み慣れた場所で住み続けることがかなわず、介護サービスが多い札幌などへ転居することも多い。
 これは北海道のこの町のみの出来事ではなく、日本国中あらゆる場所に在る。人はどこかで暮らし、年を重ねる。どこに暮らしていても、その人らしい暮らしが営めるように。病気などで何らかのケアが必要となっても、所得や家族の意向だけで左右されないように。すべての人のWell-beingを、一人ひとりのLIFE(生命・生活・人生)から考え続けたい。

【略歴】

中田 雅美(なかたまさみ)。
中京大学現代社会学部准教授。
社会福祉学・地域福祉研究。
日本福祉大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程修了。
博士(社会福祉学)・社会福祉士。
1979年生まれ。

(中京大学中田雅美)先生顔写真.jpg

  

2023/10/24

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