社会的スキルを身に付ける機会
運動・スポーツを通して子供を育てる

 近年、子供達の運動やスポーツの実施率が低下しています。メディアなどの報道でご存知の方も多いと思います。昔は公園や近くの空き地、道などでも子供が元気に遊ぶ姿を目にすることは多かったと思います。しかし、近年では、公園に行っても昔ほど子供はいませんし、残念なことに公園でゲームをしている子を見かけることもあります。ゲームを完全に否定することはできませんが、公園などの屋外空間では、できれば元気に遊んでほしいと思ってしまいます。また、空き地や道といった空間は、今では子供にとっての遊び場としての機能は、ほぼ失ってしまっています。安全面を考えればやむを得ないのかもしれませんが、若干の寂しさを覚えます。

 さて、ここで子供の運動やスポーツ実施が減ることは何が問題なのかを考えてみたいと思います。世間では、体力低下が一番の問題として取り上げられることが多いと思います。筆者も、この点を多く研究してきたので、子供の体力低下には大きな懸念を抱いています。一方で、子供の体力がピークだった1985年頃のような状況に戻るのはなかなか難しいとも感じています。社会の利便性が大幅に向上した現在、当時のような体力水準を維持できるような生活形態自体が消失しているため、なかなか難しいかもしれません。おそらく、平成の前半頃の水準にまでは戻せると感じていますが、それ以上の水準を目指して、体力向上や過剰に測定値などに執着することは、子供の運動促進には、むしろネガティブに働いてしまうかもしれません。

 それでは、子供の運動やスポーツ実施が減ることの最大の問題はなんでしょうか。私は仲間や規律、協調性、努力などといった、スポーツを頑張ってきた人であれば、誰もが運動やスポーツ活動を通して獲得してきた要素にあると思います。こういった要素は、近年では社会的スキルなどと言われ、これからの時代を生き抜く上で非常に重要な能力と考えられています。運動やスポーツの場面というのは、こういった能力を獲得するための機会が盛りだくさんです。多くの仲間ができたり、みんなで力を合わせたり、努力を継続するといった習慣は運動やスポーツを通して養われる重要な能力だと思います。最近では、このような能力獲得と運動実施の関係性を示す研究成果も見られてきています。体力の数値というのはこれらの能力を獲得した先にある成果に過ぎません。問題なのは、子供が運動やスポーツを通して、こういった能力を養う機会が減ってしまっていることだと思います。もちろん、運動やスポーツが万能だとはいいませんが、これからの社会において重要な社会的スキルを養うためにも、もう一度多くの子供が運動やスポーツに興じる社会になることを期待しています。勝った、負けたばかりではなく、楽しく運動をし、その中で悔しかったり、嬉しかったりを経験することを通して、子供は成長するということを我々大人たちはもう一度思い出して、子供の運動実施に寛容で前向きな社会になっていってほしいと思います。

【略歴】

中野 貴博 (なかの・たかひろ)。
中京大学スポーツ科学部スポーツ健康科学科 教授。
子どもスポーツ学、発育発達学。
筑波大学大学院。博士(体育科学)。
1973年生まれ。

(中京大学)中野先生 顔写真 ds.jpg

  

2023/09/14

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