サステナビリティ情報の開示がスタート
財務報告でわかるSDGsの取り組み姿勢

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  経営学部     吉田 康英教授

 2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、日本も積極的に取り組んでおり、17のゴールを色分けしたSDGsバッジを付けたビジネスパーソンをよく見かける。企業行動における「持続可能な開発」、すなわちサステナビリティの概念は、ESG(環境・社会・企業統治)要素を含む中長期的な持続可能性であり、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止などの広範囲に及ぶものである。
 企業行動の結果を示す財務報告は、財務諸表に代表される金額を中心とする財務(定量)情報が主体であり、記述(定性)情報は補足的な役割にとどまっていた。この点について、近年では企業と投資家間の対話の基盤として記述情報の重要性が増しており、企業によっては気候変動対応に関する取り組みなどの自主的な開示が行われている。金融庁も2023年3月期以降の有価証券報告書から、サステナビリティ情報の開示を求めている。
 具体的には企業の中長期的な持続可能性に関する項目として「サステナビリティに関する考え方及び取組」が新設され、4つの構成要素(ガバナンス、リスク管理、戦略、指標・目標)に基づいて開示される。このうちガバナンスとリスク管理の開示は、全ての対象会社が必須であり、戦略と指標・目標は各社の重要性の判断のもとで開示される。気候変動対応も、4つの構成要素の枠内において、各社の重要性の判断のもとで開示される。
 人的資本に関しては、人材の多様性の確保を含む人材育成方針や社内環境整備方針などの記述情報や、それらに関する測定可能な指標などの開示が求められる。さらにこの記述情報を補足する定量情報として、女性管理職比率、男性育休取得率、男女間賃金格差が開示される。
 企業行動の結果である財務報告の理解を深めるためには、企業行動を取り巻く状況や経営者の考え方を理解する必要があり、そのためには従来の金額中心の財務情報に加えて記述情報が必要となる。その意味では、有価証券報告書などの財務報告における記述情報の位置付けの高まりは必然といえる。
 有価証券報告書の作成・開示は上場会社などに限られるが、SDGsへの関心や取り組みは中堅・中小企業にも普及しつつある。したがって、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示の動向は、いずれ中堅・中小企業の企業行動や財務報告にも影響を及ぼすことが予想される。法定開示書類の有価証券報告書は、開示様式が規定されているため、サステナビリティ情報の会社間比較は容易である。
 法定開示事項は最低限記載すべき内容であり、それを超える任意開示を妨げるものではない。企業行動にSDGsを積極的に取り入れる会社は、法定開示事項を超える任意開示を積極的に行う一方、本腰が入っていない会社の開示は、法定開示事項にとどまるかもしれない。有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示の度合いは、その会社のSDGsへの取り組み姿勢を写す鏡と言える。

【略歴】

吉田 康英(よしだ やすひで)。
中京大学経営学部教授。
日本・米国公認会計士。
会計学。
名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。
1960年生まれ。

  

2023/06/22

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