農業先進国イタリアに学ぶ
外国人活用と高付加価値化を参考に

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   経済学部     近藤 健児教授

 高度経済成長以後、日本の農業従事者は低収益であり、高齢化が進んでいる衰退産業であり続けたが、必然的に生じる食料自給率の低下は安全保障という点からも決して看過すべきことではない。ではいかにして国内農業を活性化し、発展させられるのか。
 農地を集約して広大な農地を機械化により耕作する大規模化の推進は日本では困難であり、北海道など例外的な地域を除いては小土地所有農家による経営が続いている。日本の農家一戸当たりの経営耕地面積は全国平均で2.99haにすぎず、58haもあるドイツやフランスと比べても著しく零細である。自然災害など不確実要因はさておくとしても、そもそも伝統的小規模の農業が低収益であることが、これまで農業離れの主因であったし、新規就農者が増えない理由でもあった。農業従事者は60歳以上の占める割合が6割を超えるなど高齢化が進み、後継者不足から耕作放棄地が増えるなど衰退が進行し危機的状況下にある。
 しかし島根県海士町のように、近年都市からIターンする若者など青年新規就農者への手厚い支援を掲げる自治体も増え、離島を含む辺境での農村労働者の減少傾向はやや緩やかになりつつあるのも事実である。今後とも農業が持続的に発展してゆくためには、農家規模が小さくとも生産性の高い農業スタイルの導入が模索されなければならない。近年日本でも農業所得向上のために、農業従事者が加工から販売までを手掛ける農業の六次産業化や、農業従事者が農作物と共に宿泊や農業体験などを提供するアグリツーリズムを推進することで、生産物を差別化かつ高付加価値化して市場経済にコミットすることが各地で試みられている。
 さらに担い手不足解消のために、外国人技能実習生の活用が試みられてきた。技能実習そのものについては、一部受け入れ先による人権蹂躙や技能習得につながらない低賃金労働を強いる行為などさまざまな問題を制度的に抱えているが、全実習生の3割程度は農業および食品加工業に就労しており、現在では彼らが欠くことのできない戦力になっている。
 こうした日本の農業の現状を踏まえると、将来の目標として参考にすべきG7の国はイタリアである。イタリアは一戸当たり平均経営面積が6.1haと日本と類似の零細規模でありながらも、マッセリア(宿泊施設やレストランを併設して農産物を観光客に提供する農場)や農村食品加工工場が普及するなど高付加価値化に成功して農業所得を向上させた先進的な国である。また南部ブーリア州では農産物の1/4以上が非EUの外国人の手で生産されるなど移民労働者の雇用面でも先行している。ちなみに筆者の専門は理論分析であるが、最近の研究により、都市と農村の二重経済下に、環境に優しいマッセリアのようなアグリツーリズムを展開し、そこに受入国内で消費活動を行う外国人労働者を導入することで、経済厚生が高められることが論証できている。研究成果を発信することで、日本農業の高付加価値化に貢献できればと考えている。

【略歴】

近藤 健児(こんどう・けんじ)。
中京大学経済学部 教授。
国際経済学。
名古屋市立大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。 
博士(経済学)。
1962年生まれ。



  

2023/04/14

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