スポーツ科学部 渡邊航平教授の研究チーム
健康・体力づくり事業財団/健康運動指導研究助成に採択

 スポーツ科学部渡邊航平教授の研究チームは、健康運動指導研究助成(公益財団法人 健康・体力づくり事業財団)の指定研究に採択されました。同研究助成は、健康運動指導士や健康運動実践指導者の自由な発想に基づいた地域身体活動・運動の推進に関する研究を対象としています。採択課題は、「高齢者における温泉入浴と運動の習慣が循環器系および神経筋系へ及ぼす影響」であり、入浴の習慣が高齢者の身体に及ぼす影響を運動習慣と関連付けて検討することを目的としています。近年では、高齢者であっても体力の維持や改善のために筋力トレーニングあるいは強度の高い運動を実施することが推奨されています。このような運動は神経筋系(運動神経や筋肉)に対しては大きなプラスの効果をもたらすものの、循環器系(心臓や血管)にとってマイナスの効果をもたらす可能性が指摘されています。一方、温泉や湯への入浴は、その血管拡張作用などから循環器系に保護的に作用することが古くから知られています。今回採択された研究課題では、高齢者において、これら2つの要素の組み合わせ効果を調査することによって、神経筋系にとって有用な運動を、循環器系を保護しながら実施するための方策を提案できると考えています。さらに、シニアの方々にとって、地域コミュニティへの参画はQOL(生活の質)を維持する上でも非常に重要です。この研究プロジェクトの大きな特徴は、入浴施設という地域に根差したハードとコミュニティといったソフトを最大限に活用して研究を進める点にあります。長久手市にある温泉施設「長久手温泉ござらっせ」で働く健康運動指導士・冨成祐介氏および当地域で長年に渡って運動指導やコミュニティ運営に携わる川上慎太朗氏を研究チームに迎えることで、「アカデミアで培った知見を地域に定着させる」ことが実現可能な体制になっています。当研究プロジェクトには、渡邊教授が名古屋市および豊田市で主宰するシニア向けコミュニティである八事いきいきアカデミーおよび保見いきいきアカデミー(会員数:250名)の方々にも協力を要請することで、愛知県内の多くのシニアの方々を対象とした大規模研究プロジェクトとして展開されます。

 本研究助成制度は、公益財団法人健康・体力づくり事業財団が認可する健康運動指導士(*1)や健康運動実践指導者(*2)の資格を有する者の研究活動を支援することを目的としています。渡邊教授および冨成氏は健康運動指導士の資格を、共同研究者である渡邊航平研究室の竹田良祐特任助教は健康運動実践指導者の資格を、それぞれ有しています。本研究プロジェクトでは、これらの資格取得を目指す渡邊航平研究室のゼミ生も測定に参画します。これに加えて、渡邊教授は、冨成氏および川上氏とともに長久手市においてシニア向けの健康づくり教室(長久手市委託事業)を新たに開講し、より深く地域に根差した健康づくりも進めていきます。この教室は、渡邊教授の指導の下、ゼミ生の実践研修として約1年間に渡り学生主導で展開される予定です。

助成概要

助成名:健康・体力づくり事業財団/健康運動指導研究助成

研究区分:指定研究

助成期間:令和5年5月1日から令和6年3月31日

研究課題:高齢者における温泉入浴と運動の習慣が循環器系および神経筋系へ及ぼす影響

研究代表者:渡邊航平(中京大学スポーツ科学部・教授)

共同研究者:冨成祐介(株式会社長久手温泉)、川上慎太朗(株式会社シンセリティー)、竹田良祐(中京大学スポーツ科学部・特任助教)、廣野哲也(中京大学スポーツ科学部・日本学術振興会特別研究員PD)

渡邊教授のコメント

 本研究プロジェクトで対象とする神経筋系と循環器系は、これまであまり関連付けられて研究されていませんでした。近年、我々の研究室では神経筋系と循環器系の機能や状態との関連性に関する研究を進め、その一部は既に論文として発表されています(Takeda, Watanabe et al. Physiological Reports 10 (21) e15514, 2022)。本研究プロジェクトは、これら2つの要因を「入浴習慣」という観点から関連付け、シニアの方々にとって、効果的な運動プログラムを、安全に実施する方法を提案していきます。このような学術的な価値に加え、本研究プロジェクトでは研究室の学生も多く参画するため、運動指導現場の将来を担う学生の養成にも貢献できると考えています。スポーツ科学部での学びは、競技力向上はもちろんのこと、様々な場面で活用が可能です。その最たる例がシニアの健康づくりだと考えています。本プロジェクトに参画する学生の皆さんには、本学部の授業で学んでいることが、様々な可能性を持っていることを感じて欲しいです。

*1

 健康運動指導士とは、保健医療関係者と連携しつつ安全で効果的な運動を実施するための運動プログラム作成及び実践指導計画の調整等を行う役割を担う者をいいます。この健康運動指導士の養成事業は、昭和63年から厚生大臣の認定事業として、生涯を通じた国民の健康づくりに寄与する目的で創設され、生活習慣病を予防し、健康水準を保持・増進する観点から大きく貢献してまいりました。平成18年度からは、公益財団法人健康・体力づくり事業財団独自の事業として継続して実施しております。今般の医療制度改革においては、生活習慣病予防が生涯を通じた個人の健康づくりだけでなく、中長期的な医療費適正化対策の柱の一つとして位置づけられており、今後展開される本格的な生活習慣病対策においては、一次予防に留まらず二次予防も含めた健康づくりのための運動を指導する専門家の必要性が増しており、とくに平成20年度から実施の特定健診・特定保健指導において運動・身体活動支援を担うことについて、健康運動指導士への期待がますます高まっているところです。

健康・体力づくり事業財団 健康運動指導士とは(一部抜粋)

https://www.health-net.or.jp/shikaku/shidoushi/index.html

*2

 健康運動実践指導者は、健康づくりのための運動指導者に与えられる称号のひとつで、第2次国民健康づくり運動(アクティブ80ヘルスプラン)の一環として、平成元年の養成開始以来、もうひとつの称号である健康運動指導士と両輪となって生涯を通じた国民の健康づくりに貢献してきました。しかしながら、健康運動指導士は、従来の「個々人の身体状況に応じた安全で効果的な運動を実施するための運動プログラム作成と指導」に加え、「生活習慣病にかかる可能性のある"ハイリスク者"への個別指導・健康支援」を行う人材として平成19年度から養成されているため、健康運動実践指導者独自の活動範囲及び少子高齢社会に対応した新たな役割がないか、検討した結果、自ら見本を示せる実技能力と、特に集団に対する運動指導技術に長けた者となるよう養成をすすめることとしました。ご承知のとおり、我が国の健康問題は成人だけに限らず、小・中・高等学校等の学校教育における学習活動を通じて、生涯にわたって自らの健康を適切に管理し改善していく資質や能力を育成していくことが求められています。

健康・体力づくり事業財団 健康運動実践指導士とは(一部抜粋)

https://www.health-net.or.jp/shikaku/shidousya/index.html

関連サイト

・中京大学スポーツ科学部

 https://sps.chukyo-u.ac.jp/sports/spoken/#license

 スポーツ科学部では健康運動指導士や健康運動実践指導者の資格を取得するためのカリキュラムが準備されています。

・健康・体力づくり事業財団/健康運動指導研究助成

 https://www.health-net.or.jp/tyousa/josei/index.html

・中京大学スポーツ科学部 渡邊航平研究室ホームページ

 http://kwatanabe.net/index.html

2023/04/12

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