2次被害の防止に向けて
犯罪被害者等支援条例をご存知ですか

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   心理学部     神谷栄治教授

 2022年4月、愛知県において犯罪被害者等支援条例が施行されました。この条例は「犯罪被害者やその家族の権利・利益の保護、受けた被害の回復そして生活の再建を図ること」や「犯罪被害者やその家族等を支え、誰もが安全に安心して暮らすことができる社会の実現に寄与すること」を目的としています。この条例には、県や県民の責務についてだけでなく、事業者の責務についての条文もあります。そこには、事業者が事業活動を行うに当たって「犯罪被害者が置かれている状況や犯罪被害者支援の必要性についての理解を深め、二次被害が生ずることのないよう十分配慮するように努めること」や「雇用されている人が犯罪被害者になった場合に、就業の継続に十分配慮するよう努めること」が挙げられています。
たとえば、ある事例を想定してみましょう。会社員のAさんは、年度末の繁忙期に残業し夜遅い時間に帰宅しようとしていました。その帰宅途中で、2人組の男からのひったくりの被害に遭遇しました。Aさんは突き倒されバッグを奪われました。打撲と脱臼のけがを負いました。Aさんは3週間会社を休みある程度身体は回復したあとも、長期にわたって会社を休職せざるを得ませんでした。というのは、被害にあうのではないかという恐怖で、夕方以降の外出ができなくなったため、通勤が困難となったのです。
 こうした被害者の方は、身体的被害・経済的被害にくわえて、さまざまな困難に出会うことになります。たとえば、起訴や裁判などの手続きのためにたびたび警察などに出向き、思い出したくもない記憶を何度も説明しなければならないということがあります。こうした時に特に問題となるのは、被害者が2次被害に会いやすいということです。2次被害とは、事件による直接的被害以外の、その後に起きてくるさまざまな被害のことをさします。たとえば、Aさんの例でいえば、被害について「そんな時間にひとりで出歩いていたAさんにも落ち度があるのではないか」といったような言葉が典型的なものです。そして、事業者に関連する2次被害としては、被害者が病院に通うために、半休をとろうとすると「いったいいつまで回復にかかるのか。仮病なのでは」などと言われるということがあります。こうした2次被害や、被害に対する理解や配慮の不足によって、就労を維持することが難しくなることさえあります。事件を引き起こしたのは加害者であるのに、被害者が責められ社会生活の維持が困難になるという理不尽な状況が生まれるのです。
 こうした2次被害を防ぎ、被害者の方が社会生活を回復することを推進するために、条例ができました。私は臨床心理士として、被害者のお話を聞く機会がありますが、職場や学校など身近な人の理解や配慮がないため、被害者の方がさらなる苦境に追い込まれるのを見てきました。この条例の施行が、被害者への配慮と2次被害の防止に向けて理解を深める契機になることを願っています。

【略歴】

神谷栄治(かみや・えいじ)。
中京大学心理学部教授。
臨床心理学。
東京都立大学大学院博士後期課程単位取得退学。修士。
1965年生まれ。



  

2023/03/29

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