システムはハード・ソフト・ネットの組合せ
先を見越した設計が功を奏す

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工学部
磯 直行教授

 パソコンやスマートフォンなど、現代では多くのディジタル機器が日常的に使用されている。情報家電と言われるこれらの機器が家庭や企業に急激に普及したのは1990年から2000年頃である。ハードウェアとして、例えばパソコンは年間4モデル(春夏秋冬モデル)が発表され、性能を向上させていた。各メーカーは頭脳に相当するCPU(中央処理装置)やメモリなどの性能を競い合った。一方、ソフトウェアはこのハードウェア上で動作する応用プログラムのことで、最近はアプリと呼ばれている。当時のソフトウェアは日本語タイプライターとしてのワープロ、家計簿や財務会計処理を行う表計算、住所録や顧客名簿管理を行うデータベースが主な用途であり、1台のパソコンでさまざまな機能を実現していた。
 しかし、現代の情報家電をはじめとする家電製品は機器単独でその機能・性能を評価することができなくなっている。それは、これらがインターネットなどのネットワークに接続され、ハードウェア、ソフトウェア単体でなく、これらが一体になったシステムとして構築・動作するようになったためである。電子メールやWeb閲覧など、目の前のパソコンやスマートフォンがいくら高性能であったとしても、通信相手のサーバやネットワークの混雑状況によってその性能を生かすことができないことがあるのはそのためである。このようなシステム全体の性能を決めてしまう要因をボトルネックという。現代ではシステム全体を俯瞰しながらこのボトルネックを探し出し、バランスよく動作するように分散調整・維持する技術が求められている。そのためには設計の初期段階から後に調整可能な仕組みを組み込んでおくことが重要である。
 筆者が行っている大学の授業も同様で、以前は教室の設備(ハードウェア)や教員が行う講義のおもしろさ(ソフトウェア)の提供に注力したが、ネットワークを介した遠隔授業が行われるようになり大きく変化した。動画・音声の伝送技術を駆使したリアルタイム講義や、受講者がいつでも自由な時間に学ぶことができるオンデマンド講義など、さまざまな授業スタイルを選ぶことができるようになっている。
 筆者は 2001年に東海地区で初めてネットワークを用いた遠隔授業を行う実験に参画した。一般家庭に高速光回線が引かれる前の時代に、リアルタイム授業ができるかどうかの検証実験である。実験は成功し、当時は「いずれはお茶の間大学も」と話題になった。それから約20年が経過し、新型コロナウィルス感染症対策として遠隔授業が多く実施されるようになった。企業でも在宅勤務などのテレワークに生かされていることだろう。どれも、その当時からシステム全体のことを考えていたからこそ、急な対応が迫られてもスムーズに移行することができた。
 最近話題の半導体やAIなど、大規模で複雑なシステムほど将来を見越した余裕のある設計を行い、必要な時にすぐに活用できるよう備えたいものである。

【略歴】
磯 直行(いそ・なおゆき)。
中京大学工学部電気電子工学科教授。
システム設計工学。
名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻博士課程後期課程単位修得退学。博士(工学)。
1966年生まれ。



  

2023/01/12

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