製造ラインにおける外観検査の自動化
産学連携によるトータルウィン

(中京大学)青木公也・顔写真.jpg

工学部
青木公也教授

 モノづくりの現場において検査は欠くことができない。特に外観検査は、材料選別から最終製品の良否判定によって不良の流出を防ぎ、製品品質や企業への信頼性を担保する上で重要な工程である。従って検査の再現性・効率性の観点から、目視検査に代わって画像処理技術による自動化が進められてきた。単純な検査であれば人間より遥かに高速かつ精密な検査が可能となって久しい。近年では、いわゆるAI(人工知能)技術の応用も進み、自動検査への期待は益々高まっている。「2021年版ものづくり白書」でも、主力製品の製造に当たり重要となる作業の一つに「測定・検査」があり、その5年後の見通しにおいて「デジタル技術に代替される」と回答された割合が最も高い。しかし、外観検査の自動化は必ずしも容易ではない。
 部品や食品、素材等、多岐に渡る検査対象と、検査項目(キズ、変形、汚れ、シミ、ムラ、異物など)に対応して、その画像処理方法や、撮像条件の設計や調整が必要となる。つまり、ワンオフ開発になりがちである。「ものづくり企業の生産現場における検査の自動化促進可能性調査」では、画像処理・AI技術を適用するシステムインテグレーション技術がユーザ企業に不足していることも、自動化の阻害要因として指摘されている。このことは筆者も、技術相談や企業向け技術セミナの講師の経験から痛感している。
 外観検査装置は、カメラなどで検査対象を撮像する撮像系と、画像から良不良を判定する画像処理系から成る。前述の通りその設計・製作には、既存の画像処理技術を検査対象・項目等に応じて組み合わせる適用技術が必要であり、プログラミング能力、センサ・照明などの光学系の知識、メカトロの知識、そして画像処理に関する知識が要求される。これにAIの知識が加わった。AIは今のところ人検査員を超える能力を持つ魔法の仕掛けではない。外観検査においてAIは画像処理系を構成し、撮像系で得られた画像を入力すると判定結果を出力する。従って、そもそも入力画像に所望する判定に十分な情報が含まれていなければ、たとえ最先端のAI技術を適用したとしても問題は解決しない。昨今、AI/DX人材の育成・確保が叫ばれているが、その技術をモノづくりの現場に適用するには、まさに現場を熟知している必要がある。
「2021年版ものづくり白書」では、「測定・検査」は後4年ほどで「デジタル技術に代替される」と回答されている。それを実現する有効手段は産学連携である。「産」にはモノづくりの最前線で戦うエンジニアと実問題があり、「学」には最新の画像・AI技術を駆使して仮想問題を解く教員と学生達がいる。筆者は外観検査装置の研究・開発は実学であり、つまり実問題に根差した一大学術・産業分野であると考えている。産学連携を通してこそ、現場のデータの本質を理解していて、かつ画像・AI技術を運用できる人材が育成される。

【略歴】
青木 公也(あおき・きみや)。
中京大学工学部教授。
画像処理。
慶應義塾大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士課程修了。博士(工学)。



  

2022/12/22

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