憲法改正国民投票を考える
投票運動に必要な規制とは

(中京大学)今井顔写真 .jpg

総合政策学部
今井 良幸教授

 2022年7月に参議院選挙が実施され、いわゆる改憲勢力が3分の2の議席を占める結果となり、既に同勢力が3分の2を占める衆議院とともに、憲法第96条で定める憲法改正案の国会での発議の要件を数字上は満たすこととなった。この結果を受けて、国会でも憲法審査会が定例的に開催されるようになり、憲法改正に向けて議論が進められつつある。 
 これまで憲法改正をめぐっては、具体的な改正内容以外にも、国会での発議後に実施される国民投票手続きや投票運動の規制も課題となってきた。手続きという点では、2006年に「日本国憲法の改正手続に関する法律」が制定され、またその後2度の改正が行われたことにより、一応の体制は整ったことになる。
 しかし、同法には放送メディア(テレビ、ラジオ)における投票運動の広告規制に関して若干の規定が置かれているものの、この内容では不十分だとの指摘もされている。また、投票運動経費やインターネット上の広告については、全く規制が行われていない状況がある。
 わが国では、これまで憲法改正に関するものも含めて、国民投票が実施された事例はないが、筆者の研究対象とするイギリスでは、特に1997年以降、国民投票(スコットランドなどでの住民投票も含む)の事例が増えている。その中で、特にEU離脱の是非を問う国民投票(以下、「EUレファレンダム」という。)では、SNS上での投票運動、特にマイクロ・ターゲティングやダーク・アドというような、特定の選好を持つ層に対してアプローチする手法を用いて、扇動的な情報やいわゆるフェイクニュースを送付するような事例が見られ、投票結果にも一定の影響を与えたとも言われる。
 イギリスではレファレンダムの投票運動に関して、テレビやラジオについては、登録団体に対して割り当てられる投票運動放送以外は、これらのメディア上で投票運動を行うことができない。また、投票運動にかかる経費についても、投票運動団体のカテゴリーごとに上限が定められており、一定程度公平性が保たれている。
 一方で、オンライン上の投票運動に関しては、規制導入の議論が進められてはいるものの、2022年選挙法(Elections Act 2022)により、オンライン上の広告への運動者の氏名や住所などの表示が義務化されたことが目立つ程度である。オンライン上の投票運動については、特にEUレファレンダムを契機に議論が開始されたものの、オンライン上の広告に特化した投票運動経費の規制やマイクロ・ターゲティング、フェイクニュースなどへの対策は不十分な状況が続いている。
 わが国でもインターネット上の投票運動に関しては、憲法審査会で審議され始めたものの、導入までには様々な視点から議論が必要となり、時間を要することが予想される。投票運動に関するルールの整備による公平性の確保は、国民投票の結果の正統性を担保する意味から非常に重要であり、十分な議論を行い、必要な規制を導入する必要があるだろう。

【略歴】
今井 良幸(いまい・よしゆき)。
中京大学総合政策学部教授。
憲法、地方自治法。
名城大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。
1974年生まれ。

  

2022/11/17

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