外国為替レート予測の可能性
進む円安

(中京大学)石井北斗 顔写真 サイズ小.JPG

総合政策学部
石井北斗助教

 1998年8月以来24年ぶりに、ドル円レートが1ドル140円を超え、円安の動向に世間の注目が集まっている。ちょうど10年ほど前は歴史的な「円高」に直面したが、それとは対照的な状況だ。

 円安の一つの問題として、輸入品価格の上昇が挙げられる。特に、原油やLNG(液化天然ガス)・原料品(木材等)・食料品は輸出額に対して輸入額の割合が高い品目である。これらの輸入品は、国内の企業活動や消費活動に不可欠なものであり、円安による輸入品の価格上昇は国内経済に影響を与える。対照的に、円安の利点として国内製品の国外での価格競争力の上昇が挙げられる。円安によって、国外での現地通貨建てでの製品価格が割安になるからだ。

 国際的な商取引や金融取引において、外国為替レートは中心的な役割を担っており、その変動は企業活動や消費活動に大きな影響を及ぼす。そのため外国為替レートの将来的な動向は、政策立案者・企業・消費者のそれぞれにとって関心事である。

 外国為替レートは予測可能なのだろうか。この問いに対して、外国為替レートの決定要因の説明や予測を試みる研究が、これまでに数多く実施されてきた。代表的な外国為替レートの決定を考えた諸理論には、二国の金利差で考える金利平価説、二国の物価水準から考える購買力平価説、二国の貨幣市場の動向で考えるマネタリー・モデルなどがある。

 これらの諸理論は、それぞれ異なった視点で外国為替レートの変動を試みたものである。例えば、金利平価説は二国間の金利差から生じる短期的な二国間の資金移動の特徴から外国為替レートが決まると考える。また、購買力平価説では二国間において長期的に同じ財は等価になるという一物一価に基づいて外国為替レートの決定を考える。そして、(伸縮的)マネタリー・モデルは短期的にも購買力平価が成立するという仮定のもとで、二国の経済動向から外国為替レートの変動の説明を試みるものである。

 これまでの外国為替レートの理論的な研究をふまえたうえで、実際のデータを利用した将来の外国為替レートの予測に関する研究も実施されてきた。しかし、現時点で知り得る情報を利用して将来の外国為替レートを予測できるかというと、それは極めて難しいことが知られている(Meese and Rogoff, 1983)。それでも現在にかけて、外国為替レートの予測の改善を報告している研究もあるが、それは暫定的な結果であるとする見方が占めている。ただし、予測精度の評価は、「コップに水が10%入っているか、90%が空であるか」と例えられるように、少しでも予測が可能であると考えるか、それともほとんど予測ができないと考えるかによってその評価は変わる。

 多くの人にとって外国為替レートは、日常的にニュースなどで見聞きするものであるが、いまだに将来の外国為替レートの予測については、多くの課題が存在している。

【略歴】
石井 北斗(いしい・ほくと)
中京大学総合政策学部助教。
金融論。
名古屋大学大学院経済学研究科社会経済システム専攻博士後期課程修了。博士(経済学)。
1991年生まれ。

  

2022/10/27

  • 記事を共有