オフショアリングとインフレ率
米国の経済政策と今後のインフレ率

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国際学部
福田勝文准教授

「物の値段が継続的に上がること」をインフレと呼ぶ。近年、テレビニュースや新聞記事で見かけることがたびたびあるであろう。近年のインフレの主な原因として3つの理由があげられる。1つ目に、18年7月に開始した米中貿易戦争による両国の関税引き上げ競争、2つ目に、20年から現在まで世界中で流行しているコロナウイルスに伴う生産や物流への影響、最後に、22年に開始したウクライナ紛争である。

 リチャード・ボールドウィン氏の著書『世界経済大いなる収斂: ITがもたらす新次元のグローバリゼーション』(日本経済新聞出版社)は情報通信技術の革新と生産工程の国際的な分割の進展及び経済に与えた影響について以下のように説明している。インターネット費や国際電話の費用の大幅な削減は、先進国から途上国へノウハウの伝達を可能とし、生産工程を異なる国に分割する場合に必要な調整費用を削減した。労働集約的な(部品)生産工程を賃金の安い途上国で行えるようになり、オフショアリング(生産工程の国境をまたぐ分割)が活発になった。同過程で、途上国が関税の引き下げや直接投資の受け入れを活発に行い、先進国と中国などの途上国間の貿易が盛んになった。

 オフショアリングが盛んにおこなわれてきたが、その流れが上記の3つのイベントによって逆行した。前政権が作り出した関税引き上げから引き下げへの動きにバイデン政権は乗り出していない。同国のインフレ対策の意見が異なり、今後が不透明である。財務長官のイエレン氏は21年11月に高関税が輸入された部品やエネルギーの国内価格を上げ、インフレーションをもたらしている。それゆえ、関税を下げることがインフレーションを下げるであろうと述べた。22年6月、関税引き上げは米国の消費者や企業に打撃を与えている。インフレに対する万能薬ではないが、関税引き下げはインフレ引き下げに対して是認されると述べている。ただ、バイデン大統領は22年5月、国内のサプライチェーンを用いた生産拡大(リショアリング)を考えていると述べた。米通商代表部タイ代表も22年5月、中国との中長期的な関係を考えると、関税引き下げを行うべきでないと述べた。イエレン氏は7月、韓国を訪れて信頼できる同盟国とのサプライチェーン(フレンドシェアリング)を強めたいとも述べた。

 サプライチェーンの影響によってインフレ率に対してどの程度影響があるのであろうか。セントルイス地区連銀のSantacreu氏たちは米国製造業のインフレ率のデータを用いて分析した。同推計によれば、2021年の1月から11月のデータを用いて、米国製造業のインフレ率がサプライチェーンの影響を通して11か月で20%増加したことを示した。今年11月には米国で中間選挙がある。選挙前のバイデン政権の意思決定によってオフショアリングに戻るのか、フレンドシェアリングに変更するのか、現状維持なのかによって今後のインフレ率の推移が変わるであろう。

【略歴】

 福田 勝文 (ふくだ・かつふみ)。 
 中京大学国際学部准教授。
 国際経済学、経済成長論。
 神戸大学大学院経済学研究科修了。博士(経済学)。
 1980年生まれ。

  

2022/09/06

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