ジェノサイド後の光と影
CHOGM 2022から見るルワンダ

(中京大学)鶴田顔写真.jpg

国際学部
鶴田綾准教授

 2022年6月下旬、アフリカ中央部のルワンダ共和国で、コモンウェルス首脳会議(CHOGM)が開催された。コモンウェルス(旧イギリス連邦)は、イギリス帝国が被支配地域とのつながりを独立後も維持するために、1949年に設立された。CHOGMは、加盟国首脳らがさまざまな国際問題を議論する場で、CHOGM 2022では、COVID-19を中心とする保健衛生問題や気候変動への対応などが議論された。
 これまでコモンウェルスは、イギリスと歴史的な結びつきがある国々から構成されていた。しかし、1990年代以降、加盟条件が修正され、モザンビークやルワンダといった国の加盟が続いた。ルワンダはイギリスではなく、ベルギーの支配を受けた過去を持つ。なぜルワンダは、コモンウェルスに加盟したのだろうか。また、ルワンダでのCHOGM開催は、どのような意味を持つのだろうか。
 1994年にジェノサイドが起きるまで、ルワンダは仏語圏との結びつきが強かった。1962年の独立後も、旧宗主国のベルギーとの関係は良好だった。またフランスは、1970年代以降、ルワンダと軍事援助協定を締結し、関係を深めていった。1994年4月にジェノサイドが起きた際も、フランスは、多数派フツの過激派を中心とするジェノサイド首謀者を支援していた。
 1994年7月、少数派ツチの難民武装組織(RPF)がジェノサイドを終了させ、新政権を発足させた。新政権は、フランスやベルギーから距離を取り、イギリスをはじめとする英語圏へ接近した。その一例が、2009年のコモンウェルス加盟である。
 CHOGM開催から、ジェノサイド後のルワンダの光と影を見ることができる。ジェノサイド後のルワンダは、カガメ大統領のリーダーシップのもと、「アフリカの奇跡」とも言われる経済成長を遂げてきた。首都キガリの発展ぶりや清潔さなどに驚く外国人は少なくない。汚職も厳しく取り締まられている。女性閣僚の活躍やジェンダー平等への取り組み、情報技術の活用なども、評価が高い。
 また、カガメ大統領は、ジョンソン英首相から今後2年間のコモンウェルス議長国としての立場を引き継いだ。ジェノサイド発生時に国際社会から「見捨てられた」ルワンダにとって、大きな国際会議を主催したり、国際組織で影響力を持ったりすることは、外交的にとても重要である。
 他方、CHOGM開催を機に、ルワンダの人権状況に改めて批判の声が上がっている。コモンウェルスの共通理念は「開発、民主主義、平和の促進」である。ルワンダ加盟時に、国内の人権侵害や政治的自由の制限が問題とされた。今回も、24の人権団体が連名で、人権や法の支配などのコモンウェルスの共通理念を、ルワンダ政府が遵守するよう働きかけることを求める公開書簡を首脳らに送っている。
 国際協力機構(JICA)のルワンダ事務所は、日本の企業やNGOのルワンダでの活動を奨励している。今後、ルワンダに関わる日本人は増えていくだろう。経済成長を継続しつつも、個人の権利や自由をいかに保障していくか。CHOGM開催は、ジェノサイド後のルワンダが抱える問題を考えるよいきっかけとなるのではないだろうか。

【略歴】

鶴田 綾 (つるた・あや)。
中京大学国際学部准教授。
アフリカ研究。
エディンバラ大学博士課程修了(博士)。

  

2022/08/25

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