地域社会への期待
あいさつの効用を知る

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現代社会学部
小木曽洋司教授

地域社会の成立

 社会学において地域社会という言葉が学問用語として成立するのは都市的な生活様式が一般化する1970年代である。現在の地域社会学会の前身である地域社会研究会が設立されたのは1975年であった。
 平成の大合併へと向かう地方分権化政策が推進される1990年代以後、政策課題として「自立した地域社会」の形成が目指されている。またいく度もの災害経験から、地域社会がもつ共同性の機能が、初期の救援、避難所や仮設住宅の運営、復興過程の手続きや話し合いにおいて重要な役割を果たしたと認識されてきた。こうした経緯が「公私」に中に新たな公共の担い手としての地域社会という世界を組み込んだ「公共私」という言葉を生んだ。

地域社会とは何か

 生活とは「住む」という行為である。それは住民それぞれの生活を物的に支える共同の消費手段、つまり道路や上下水道、公園、学校や病院などの生活基盤の施設を利用する行為を基礎とする。この利用は私的、匿名的ではあるが、この利用が継続的に可能であるためには、それらの施設が公共的なものとして管理されなければならない。私的な利用は公共的管理に裏付けられて成立する。
 この公共的管理は、自治体だけでなく、地域住民組織によっても担われてきた。たとえば住民の公園の対する関係は、利用だけではなく、自治会や有志による公園の管理行為も含んでいる。そのような住民の共同の管理は本来的に「住む」という行為の不可欠の部分であり、この共同の管理行為が地域社会を成立させる基盤である。
 地域生活のルールも含めた生活環境に対するこの共同的な管理行為が及ぶ範囲が地域社会の範囲であり、境界となる。自治体が分かりやすい事例であるが、自治体内の自治会の範囲(町内や集落)なども同じ機能を持っている。すなわち、共同の管理行為を内容とする自治の社会的単位が地域社会であるといえよう。今後の地域社会は、分離してきた利用と管理を統合させる機能が期待されている。

地域社会という社会環境の意味

 地域社会には、それぞれ歴史があり、共同的な管理への住民による参加の質も量も異なる。その参加形態も自治会のような住民組織からNPOといった有志組織もある。住民のこうした活動量が地域社会の「雰囲気」を形成する。つまり社会的環境をつくる。この雰囲気の中で人は育ち生活をするのである。人の他者に対する見方や姿勢はこうした地域社会のありかたから影響を受けているのである。
 あいさつを交わすことの多い地域と黙ってすれ違うことの多い地域では他人への関心度や信頼度が異なることは経験的にも理解できるのではないだろうか。人と人とのつながりがもつ社会的な力を社会関係資本というが、生起する多様なニーズを解決できる関係を地域社会として形成する課題に直面しているのが現代である。
 まずはあいさつする努力だけでも地域社会は住みやすい方向へ変化することを知ることが大切だろう。

【略歴】

 小木曽洋司 (おぎそ ようし)中京大学 現代社会学部 教授。
 名古屋大学文学研究科修了。
 地域社会学、社会問題論(青年問題、公害問題)。
 1954年生まれ。

  

2022/04/19

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