動作からパフォーマンスの向上を目指す
足の速さは才能だけでは決まらない

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田内健二 スポーツ科学部教授

 東京夏季オリンピック、北京冬季オリンピックが立て続けに開催され、日本選手の活躍はもちろんのこと、世界の超人的なパフォーマンスを目の当たりにすることが多かったと思います。

 この超人的なパフォーマンスは、選ばれた才能のある人物しかできないと考える人が多いのではないでしょうか。もちろん、才能には個人差があり、誰もが超人的なレベルに至ることは難しいですが、合理的なトレーニングさえすれば、誰でもより高いレベルに到達できると私は考えています。例えば、運動会のかけっこで足の速い子を見て、「足の速さは才能だ」という意見がよく聞かれます。では、どうやったら速く走れるのかを知っている人はどれくらいいるでしょうか。

 走るメカニズムを少しだけ紹介します。走る速さ(=走速度)は2つの要因の掛け算で決定します。1つは"ピッチ"と呼ばれる1秒間に何歩足を回転させられるかであり、もう1つは"ストライド"と呼ばれる歩幅です。ウサイン・ボルト選手が男子100mの世界記録を出したときの最高速度は時速44.5km(秒速12.4m)であり、その際のピッチは4.5(1秒間に4歩半)、ストライドは2.75mでした。したがって、走速度を高めるためには、ピッチとストライドの両者、あるいはいずれかを大きくすれば良いということになります。

 また、短距離走において走速度が最も高まる地点の動作を分析した結果から、足の遅い人と速い人との特徴を図に示しました。地面を蹴った足が地面から離れる瞬間をみると、足の遅い人は、体幹が前傾し、膝と足関節がより伸展していたのに対して、速い人は、体幹が直立位であり、膝と足関節はより屈曲していました。このことは、足の遅い人は最後まで蹴りきっているため、蹴り脚全体がより後方にあり、前に戻してくるのが遅れ、ピッチの低下につながる動きであるのに対して、速い人は蹴り終わった瞬間から蹴り脚を前に戻そうとしており、ピッチの上げるのに適した動きであると解釈できます。このように、動作を分析することによって、足が遅い人には遅いなりの、速い人には速いなりの原因があることがわかります。したがって、どうやったら速く走れるのかを知っていれば、自身(あるいは他者)の走り方をチェックして、どこの部分に問題があるのかを突き止め、そこを改善するようなトレーニングを行うことで、今よりも必ず速く走ることができるというわけです。

 このように私たちの研究室では、様々な競技種目を対象にして、パフォーマンスを高めるための合理的な動作を明らかにしたり、どのようなトレーニングを行えば良いのかを検討したりしています。

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【略歴】

 田内 健二(たうち けんじ)中京大学スポーツ科学部教授。
 筑波大学大学院 博士(体育科学)。
 スポーツバイオメカニクス。
 1976年生まれ。

  

2022/03/17

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