アスレティックトレーナーの活用
人材の育成と若者の自己実現

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光山 浩人 スポーツ科学部教授

 日本体育協会(現日本スポーツ協会)は、1964年の東京オリンピック以降、スポーツトレーナーの養成を行ってきた。さまざまな議論の後、スポーツ現場で働くトレーナーをアスレティックトレーナー(AT)と呼び、スポーツ科学・スポーツ医学を根拠としたアスリートのストレングス&コンディショニングとスポーツ傷害(外傷と障害)の予防や処置を担えることを目指し、1997年より資格認定試験を設けている。最近の合格率は20%前後で決して簡単に取得できる資格ではないが、理学療法士やマッサージ師、鍼灸師、柔道整復師のような医療資格ではなく、あくまでも公認スポーツ指導者制度の範疇にあるという制度設計である。当初数十名であった受験者数は2004年には1000名を超えている。この受験者数の増加はひとえにATコース承認校の制度を利用した体育学系大学生、専門学校生の受験によるものである。スポーツに打ち込んできた若者が将来の職業としてATを選択し、スポーツに関わり続けたいと考えるのは当然の流れであり、トレーナー学科の人気は高い。

 マスコミで報道されるプロスポーツや実業団スポーツから、ATはスポーツ現場で幅広く活躍しているイメージがあるが、未だ現実はそうではない。大多数のスポーツ現場ではATがいないことの方が当たり前である。例えば、小学校、中学校、高校の部活動はどうであろうか。高いレベルで競技スポーツを行なっている学校でさえATがいる学校は少ない。スポーツジムやフィットネスクラブも然りである。大学や専門学校を卒業してATの資格を取ってもATとして働く場所は少なく、若者の自己実現をかなえるには程遠いのが現状である。

 大学ではこのような状況に手をこまねいているわけではない。ATを目指す学生に対する教育の充実はもちろんのこと、ATに関係した傷害調査やパフォーマンス研究を行っている。ATの有用性を証明するだけでなく問題点を含めた研究成果を社会に還元する努力を続けている。近年整形外科の病院やクリニックでATを雇用し、従来のリハビリテーションでは満足できないアスリートに、治療後のスポーツ復帰を目指したアスレティックリハビリテーションを提供する動きが出てきている。これは、ATの価値を信じ地道に活動してきた関係者の努力の賜物である。

 老若男女、スポーツに関わる全ての人にとってATが身近な存在となり、ATが若者の目指すに値する職業として発展するためには、「神の見えざる手」に任せてはいられないのである。スポーツ庁が創設されたからには、国家戦略として持続的にスポーツ環境の整備が進んでいくと考えられる。その中でATが果たす役割が注目されるよう今後も産学官民の連携のもとでATの活用を模索していきたい。

【略歴】

 光山 浩人(みつやま ひろひと)中京大学スポーツ科学部教授。
 名古屋大学大学院医学系研究科 博士(医学)。
 整形外科・スポーツ医学。
 1960年生まれ。

  

2022/02/15

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