地域に根ざす企業への期待
慣行を打ち破る企業家

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松原日出人経営学部准教授

 地方創生や地域活性化は今日の社会において大きなテーマとなっている。こうした取り組みにおいて特に期待が寄せられるのは、地域に根付き事業を行う中小企業である。中小企業は地域との関係において、①地域資源の活用と②地域課題の解決という2つの役割を実務的に期待されている(『中小企業白書(2015年版)』、470頁)。

 もちろん大企業も地域経済に影響を及ぼすが、とりわけ中小企業へ期待が集まるのは、中小企業が地域と運命共同体的な側面を持っているからである。例えば、CRSV(Creating and Realizing Shared Value)という用語の登場はそうした特性と密接に関わっている。CRSVとは、「地域に根ざした事業活動を行う中小企業・小規模事業者が、事業を通じて地域課題を解決することにより、その地域が元気になり、その恩恵を、地域課題を解決する事業を行う中小企業・小規模事業者が享受するという考え方」(『中小企業白書(2015年版)』、418頁)である。

 こうした取り組みを通じて自社の根ざす地域の活性化が成されれば、企業にとっても事業環境の改善につながる。「地域のため」が、ひいては自社のためにもなる。それ故に、CRSVは地域の中小企業の「生きる道」(『中小企業白書(2014年版)』、448頁)とも表現される。今日、CSRやCSVといった取り組みが社会的課題に対する大企業の取り組みとの関係から注目されるが、地域活性化に正面から取り組む大企業は多くはない。地域に根ざす中小企業だからこそ地域の行末と自社の生存を一体視するのであり、地域をめぐる課題への対応を担う存在として注目されている。

 地域の課題を解決していくことは、リスクを伴いつつ変化を引き起こしていく取り組みでもある。変化を引き起こすキーパーソンのことを、経済学や経営学の領域においては「企業家」(Entrepreneur)という。企業家については様々な議論が存在するが、ある程度共通する考え方として、リスクを伴う不確実性の高い状況下において先導的に革新を遂行する者を企業家という。既存の慣行を打ち破る企業家の存在は様々な分野で重要視されているが、地域経済・社会との関係においても、変化に向けたキッカケを生み出す企業家へ期待が寄せられている。

【略歴】

 松原 日出人(まつばら ひでと)中京大学経営学部准教授。
 一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。
 地域産業論,経営史。
 1985年生まれ。

  

2022/01/19

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