目指すべきはTFPの向上
コロナ禍の経験生かせるか
塚本 高浩 経済学部講師
コロナ禍において、半ば強制的にテレワークやオンライン会議を経験した方も多いだろう。一方で、業種や部署の特性・規模などから、テレワーク自体がほぼ不可能であったケースも多かろう。感染症の流行という突然の外圧により、様々な試行錯誤がなされ、多様な点が浮き彫りになった。こうした経験は生かしていくべきだ。
大学の授業もオンライン化が進んだ。オンライン授業の良い面も悪い面も顕在化した。アフターコロナにおいては、単に全ての授業が従来通りに戻るのではなく、オンライン授業の経験を生かした授業の質のレベルアップを果たすべきである。メリットやデメリットを整理し、望ましい授業の在り方を議論していくべきだろう。
ただし、目先の効率性だけを追い求めてはいけない。確かに、例えばオンラインの会議は、同じ空間に集まる手間が省ける点で効率的だ。しかし、対面の会議であれば、会議中に生じた些細な疑問を隣の人と確認したり、会議終了後のたわい無い雑談から新たなアイデアが創出されたりすることもあるだろう。経済学で「知識のスピルオーバー」と呼ばれる望ましい知識共有の機会を会議のオンライン化は奪いかねない。実際に、種々の調査によるとテレワークで仕事の生産性は落ちたと感じている人が多いようである。会議といった局所の効率性や生産性に囚われずに、全体として望ましい在り方を追い求めていくべきであろう。
また近年「ワーク・ライフ・バランス」や「働き方改革」の重要性が叫ばれているが、単に労働時間を減らすだけでは、成果の絶対量も減り、賃金低下にもつながる。労働時間の削減と、労働の質の改善などによる生産性の向上はセットであるべきはずである。これらの施策の成功は、いかに生産性の向上を実現できるかにかかっている。
さて、生産性の指標として広く用いられるのは「労働生産性」であろう。これは労働投入量1単位(就業者数や労働時間)あたりの付加価値であり、理解しやすい。しかし、労働生産性だけを目標の指標とするのは、少々危険である。資本(機械設備など)を含めた他の生産要素の貢献を無視しているからである。やみくもな資本投入量の増加は、生産要素の「配分非効率」を生み、生産に係る費用を増やす可能性があり問題であるが、その場合でも労働生産性は向上を示してしまう。
そこで経済学では「全要素生産性」(TFP)という概念が用いられる。労働だけでなく資本を含めた他の生産要素も考慮した指標であり、技術進歩や労働の質の向上、知識といった無形資本の蓄積、組織運営効率の改善などによる生産性の変化を捉えることが出来る。政府や企業は、TFPを向上させる取り組みを推進していく必要がある。
生産性向上というと、コスト削減をイメージしやすいが、付加価値の大きい新たな商品の開発も生産性の向上に寄与する。近年盛んに取り沙汰されるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、業務効率の改善だけでなく、デジタル化による新たな価値の創造を目指す点に特徴がある。DXは今後生産性向上に大きく寄与するポテンシャルを有する。
【略歴】
塚本 高浩(つかもと たかひろ)中京大学経済学部講師。
名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。
博士(経済学)。
計量経済学、地域経済学。
1993年生まれ。
2021/12/14
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塚本 高浩 経済学部講師 |
コロナ禍において、半ば強制的にテレワークやオンライン会議を経験した方も多いだろう。一方で、業種や部署の特性・規模などから、テレワーク自体がほぼ不可能であったケースも多かろう。感染症の流行という突然の外圧により、様々な試行錯誤がなされ、多様な点が浮き彫りになった。こうした経験は生かしていくべきだ。
大学の授業もオンライン化が進んだ。オンライン授業の良い面も悪い面も顕在化した。アフターコロナにおいては、単に全ての授業が従来通りに戻るのではなく、オンライン授業の経験を生かした授業の質のレベルアップを果たすべきである。メリットやデメリットを整理し、望ましい授業の在り方を議論していくべきだろう。
ただし、目先の効率性だけを追い求めてはいけない。確かに、例えばオンラインの会議は、同じ空間に集まる手間が省ける点で効率的だ。しかし、対面の会議であれば、会議中に生じた些細な疑問を隣の人と確認したり、会議終了後のたわい無い雑談から新たなアイデアが創出されたりすることもあるだろう。経済学で「知識のスピルオーバー」と呼ばれる望ましい知識共有の機会を会議のオンライン化は奪いかねない。実際に、種々の調査によるとテレワークで仕事の生産性は落ちたと感じている人が多いようである。会議といった局所の効率性や生産性に囚われずに、全体として望ましい在り方を追い求めていくべきであろう。
また近年「ワーク・ライフ・バランス」や「働き方改革」の重要性が叫ばれているが、単に労働時間を減らすだけでは、成果の絶対量も減り、賃金低下にもつながる。労働時間の削減と、労働の質の改善などによる生産性の向上はセットであるべきはずである。これらの施策の成功は、いかに生産性の向上を実現できるかにかかっている。
さて、生産性の指標として広く用いられるのは「労働生産性」であろう。これは労働投入量1単位(就業者数や労働時間)あたりの付加価値であり、理解しやすい。しかし、労働生産性だけを目標の指標とするのは、少々危険である。資本(機械設備など)を含めた他の生産要素の貢献を無視しているからである。やみくもな資本投入量の増加は、生産要素の「配分非効率」を生み、生産に係る費用を増やす可能性があり問題であるが、その場合でも労働生産性は向上を示してしまう。
そこで経済学では「全要素生産性」(TFP)という概念が用いられる。労働だけでなく資本を含めた他の生産要素も考慮した指標であり、技術進歩や労働の質の向上、知識といった無形資本の蓄積、組織運営効率の改善などによる生産性の変化を捉えることが出来る。政府や企業は、TFPを向上させる取り組みを推進していく必要がある。
生産性向上というと、コスト削減をイメージしやすいが、付加価値の大きい新たな商品の開発も生産性の向上に寄与する。近年盛んに取り沙汰されるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、業務効率の改善だけでなく、デジタル化による新たな価値の創造を目指す点に特徴がある。DXは今後生産性向上に大きく寄与するポテンシャルを有する。
【略歴】
塚本 高浩(つかもと たかひろ)中京大学経済学部講師。
名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。
博士(経済学)。
計量経済学、地域経済学。
1993年生まれ。
2021/12/14