企業の研究開発と経済成長
研究開発を促進するための政策とその影響

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斎藤 佑樹 経済学部講師

 国をより豊かにするためには経済成長が欠かせない。経済成長の主要な源泉としては労働力人口の成長、資本蓄積そして技術進歩が挙げられる。人口減少下にあり、資本蓄積の経済成長への寄与度が低下している日本においては、技術進歩が経済成長のための重要な要因になると考えられる。その技術進歩の最も重要な原動力は企業の研究開発(R&D)活動である。つまり、今後の日本の経済成長において重要な要因となってくるのは、企業のR&D活動である。

 企業のR&D活動を促進する政策としては、特許保護を含む知的財産権保護の強化やR&D費用の税控除率の引き上げ、法人税率の引き下げなどが考えらえる。理論上は、企業のR&D活動を促進し、経済成長を図るためには、知的財産権保護を最大限強くし、法人税率をゼロにする、または法人税率が正であるならばR&D費用の税控除率を最大限引き上げることが望ましい。経済成長は所得を増加させるなど、消費者にとっても恩恵があるため、これらの政策を実施したほうが良いように考えられる。しかしながら、これらの政策は消費者の利益を損なう可能性がある。

 特許保護を含む知的財産権保護の強化は、R&Dに成功した企業にその技術を一定期間独占的に使用させ、保護された技術により差別化された製品をより高い価格で販売することを許し、その結果より多くの独占的な利益をもたらす。つまり、知的財産権保護の強化によって、保護された技術により差別化された製品の価格が高くなり、消費者の利益が失われる。

  R&D費用の税控除率の引き上げや法人税率の引き下げは、企業のR&D活動への投資を促進する一方で、法人税は政府の主要な財源の1つであるため、政府の税収を悪化させる。政府の財政収支を考えると、R&D費用の税控除率の引き上げや法人税率の引き下げを行うためには、ほかの主要な財源である消費税や所得税などの税率を引き上げる必要がある。つまり、R&D活動を促進するためにR&D費用の税控除率の引き上げや法人税率の引き下げを行うと、消費増税や所得増税が伴うため、消費者の利益が失われる可能性がある。

 企業のR&D活動を促進する政策として考えられる特許保護を含む知的財産権保護の強化やR&D費用の税控除率の引き上げ、法人税率の引き下げは、企業のR&D活動を促進し経済成長をもたらす一方で、保護された技術により差別化された製品の高価格や、消費増税や所得増税をもたらし、その結果として消費者の利益を損なう可能性がある。

 企業のR&D活動を促進し、技術進歩と経済成長を図り、経済成長による恩恵を消費者が享受することは重要なことであるが、企業のR&D活動を促進する政策として考えられる知的財産権保護の強化やR&D費用の税控除率の引き上げ、法人税率の引き下げは、それらが消費者へ与える負の影響を鑑みながら、それぞれの政策をバランスよく実施して技術進歩と経済成長を図っていくことが求められる。例えば、知的財産権保護を十分に強くし、法人税率を高い水準に設定し、消費税率や所得税率を低い水準に設定するといった政策を実施することも考えられる。

【略歴】

 斎藤 佑樹(さいとう ゆうき)中京大学経済学部講師。
 大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程経済学専攻修了。
 博士(経済学)。
 経済成長理論。
 1990年生まれ。

  

2021/11/25

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