言語と非言語の相補的関係
自他の違いを楽しみながら

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馬場 史津 心理学部教授

 昨年からのコロナ禍ではテレワークが推奨され、大学の会議や講義でもビデオチャットを利用することが増えました。最初は違和感がありましたが、自然と参加者が大きく頷く、賛同の意味で拍手を送るなどの工夫が始まり、対面よりも相手の様子がよく見えて、気持ちが伝わってくるという感想もあります。

 相槌としての頷きや表情、身振り手振りは非言語的コミュニケーションと呼ばれるもので、言葉のコミュニケーションを補う大切な役割があります。補うだけではなく、言葉よりも表情のほうが本当の気持ちを表していることも少なくありません。同僚に「仕事が大変そうだけど、大丈夫ですか」と声をかけたとしましょう。笑顔で楽しそうに「大変です」と返ってくれば、大変かもしれませんが大丈夫そうな気がします。逆に俯きがちに小さな声で「大丈夫です」と言われても、「大丈夫じゃなさそうだね」と言葉を継ぐことになるでしょう。私たちは会話での言葉を字義通りに受け取っているわけではなく、その人のさまざまな表現を総合して判断しています。

 そして、時に相手の言葉の意味が、私の考えている意味とは異なることに気づかされます。私は言葉について考えるために、言葉から離れることが必要だとしみじみ思うようになりました。突然ですが、みなさんは「信頼」とはどのようなものだと思いますか。色で表すと何色のイメージか、直観で選んでください。「信用し、頼れること」だと共通の理解があっても、色で表せばオレンジのような暖かいイメージや緑のような落ち着いた安心感をイメージする人もいます。徐々に濃くなっていく赤のような強い絆に変化するもの、逆に失えば白のように何も無くなってしまうもの、そのニュアンスは少しずつ異なっています。さらに、同じ色でもその人たちがイメージしている「信頼」は異なるかもしれません。改めて言葉によるその人の説明に耳を傾け、ようやくその人の考えが理解できます。

 カウンセリングでは相手に共感することを大切にします。相手の気持ちを理解するために、もし自分が同じ立場だったらと想像しながら話を聴きます。同時に、私が想像した相手の気持ちはあくまでも私の想像であり、相手の気持ちがそうだとは限らない。また、相手と同じ気持ちになれない自分がいることを自覚するように教育されます。当たり前のことですが、私と相手はこれまでの背景も経験も異なり、完全に同じ考えの人などいないのです。だからこそ、二人をつなぐコミュニケーションが大切であり、自分の意見と相手の意見を同じように尊重する姿勢が必要なのだと思います。それぞれ異なる個性を持つ人たちが集まり、言語的・非言語的コミュニケーションを駆使して自由に議論できることが、仕事の創造性や発展性を高めるのではないでしょうか。

【略歴】

 馬場 史津(ばばしづ)中京大学心理学部教授
 文教大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)
 臨床心理学。

2021/09/24

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