ランダムドットによる両眼立体視
眼はいつからあるのか

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鬢櫛 一夫 心理学部教授

 私たちの眼はいつからあるのか、眼はどこでできたのだろうか。およそ五億年前に海中で暮らす動物に眼が出現したという。四六億年の地球の歴史からすると、眼の出現は比較的最近のことである。海中の植物により大気中の酸素が増え、大気が澄んで、太陽光が海の中まで届いて、海中が明るくなった。その結果、眼が出現し進化したようである。

動物に眼ができて三次元の空間知覚が可能になると、運動能力が進化し、より速く動ける。海の中での生存競争が盛んになり動物種の多様化が促進された。光と生物の進化の歴史である。

 さて、五億年前から一気に五百年ほど前の話になる。ルネッサンス頃から人間は眼について深く考え、実験もしてきた。そのなかで、外界が三次元であるのに網膜像が二次元であることから、どうして三次元の世界を知覚できるのかという大きな問題が認識された。レオナルド・ダ・ビンチのような画家たちは遠近法など、二次元絵画を三次元に見せる技法を開発してきたが、完全な三次元の再現ではなかった。まだ何かが足りないのである。

 これについてケプラーは眼が二つあることに着目し、両眼視による三次元知覚の可能性を示唆した。その後、一九世紀にイギリスのホイートストンが左右対応する像をわずかに水平にずらした線画のステレオグラムをつくり、両眼視差により鮮明な立体視が生じることを実証した。今日の3Ⅾの先駆けであるが、しかし話はこれだけでは済まなかった。

 図にあるような左右眼用のランダムドットをよく見てほしい。この刺激では単眼で認知可能なパターンが存在しない。一九六〇年から、アメリカのユーレスはコンピュータにより白と黒の画素をランダム化した各種のランダムドット・ステレオグラムを作製した。はたして両眼視覚系は白黒の輝度だけの対応づけで両眼視差を検出し、立体視することが可能だろうか。実際、立体視が可能であり、奥行の違いにより隠された領域のパターンが認知できた。さらに網膜像から高次パターン認知過程を除去することで、ミュラーリヤー錯視など、一部の錯視が網膜より高次の段階で成立するなどもわかった。

 自然界には存在しない人工的なランダムドット実験で、人間の未知の視覚能力が明らかになった。この視覚能力のおかげで、おそらく人類の祖先の霊長類は、昆虫が色や形でカモフラージュし、木の樹皮に似せて、見つかりにくくなっても、両眼視により樹皮から浮き上がって見える昆虫をつかまえることで生存に有利になったと推量される。

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ランダムドット・ステレオグラム

【略歴】

 鬢櫛 一夫(びんぐし・かずお) 中京大学心理学部教授
 早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学 博士(文学)。
 知覚心理学。
 1952年生まれ。

  

2021/09/09

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