外国人市民による防災
それぞれの背景に配慮を

佐野先生写真.png
佐野 八重 准教授

 日本には自然災害が多い。地震、台風、大雪などが毎年いくつも発生し、大きく報道される。

 少しでも被害を抑えようと、これまで様々な努力が重ねられてきた。保育所から高校まで、子どもたちが学ぶ場では定期的に避難訓練が行われる。地震を感じたら、まず自分の身を守るための一連の行動を身につけるのだ。防災の日には関係機関が協力した大規模訓練が行われ、その様子はテレビ・新聞で伝えられる。ホームセンターには防災グッズコーナーが常設され、保存食など様々な商品が並べられている。

 このように、被害を知り防災を身近に体験する機会があることによって、災害を自分ごととして捉える姿勢が気づかぬうちに養われるのだろう。2017年の内閣府調査では、自分や家族が自然災害の被害に遭うことを想像したことがない人は、11%に過ぎない。

 かつて筆者がマレーシア・サバ州を訪れた際、現地の人に言われたことがある。「ここの人達の暮らしはのんびりしているのよ。だって、あなたの国みたいに次から次へと災害が起こるわけじゃないから」と。では、「のんびり暮らしてきた人」が日本にやってきたとき、災害に対する知識や心構えは十分に備わっているのだろうか。

 筆者も参加した名古屋大学グリーン特任准教授の研究チームでは、2015年実施の「名古屋市外国人市民アンケート調査」を用い、名古屋市在住の外国人家庭における防災の現状を分析した。その結果、家庭での災害への備えには、出身国の違い、防災訓練の経験があるか、災害情報に触れているかという三つの要因が関係することがわかった。意外なことに日本語能力の影響は小さく、それよりも、その人がどのような背景を持っているか、さらに、来日後に地域防災に触れる機会があるかにより各自の備えが異なるのだ。

 外国人が災害に対し脆弱であることは、広く認識されつつある。防災に関する各種情報を、多言語で提供する自治体も増えてきた。一方、この研究からわかるのは、出身国などにより支援ニーズが異なるということだ。つまり、外国人住民を均質的な集団としてひとくくりにしてはいけない、ということになる。そして、在留外国人を対象とした防災の普及啓発にあたっては、対象によって多様なアプローチが求められるのだ。たとえば、地震や台風のない国から来た人々には、特に手厚い情報提供や避難訓練の機会が必要なのかもしれない。

 コロナ禍により前年12月より多少減ったが、2020年6月時点で在留外国人は288万人を超えている。SDGsの一つ、「住み続けられるまちづくり」を進めるためには、自然災害への備えが重要だ。SDGsが目指す、持続可能で多様性と包摂性のある社会実現には、外国人市民の自助による防災を、公助が積極的に支援する必要があるだろう。

 異なるバックグラウンドを持つ人々が安心して暮らせるまちづくりを志すことは、すなわち日本人の誰にとってもより安心できる社会づくりにつながることを忘れないでおきたい。

佐野 八重(さの やえ)中京大学国際学部准教授
環境学
オーストラリア国立大学クロフォードスクール博士課程修了、博士

佐野 八重(さの やえ)中京大学国際学部准教授

専門分野:環境学

最終学歴:オーストラリア国立大学クロフォードスクール博士課程修了、博士

2021/03/19

  • 記事を共有