粉飾決算の経緯と防止策
粉飾の理由と代償とは?

Img42244(中部経済新聞).jpg
矢部 謙介 教授

 過去、東芝やオリンパス、カネボウといった大企業による、大規模な粉飾決算が社会問題になった。それにも関わらず、近年になっても企業による不適切会計の事例が後を絶たない。2017年以降に限ってみても、富士フイルムホールディングス、船井電機、くろがね工作所、MTG、ナイガイといった企業が、不適切な会計処理を理由として、日本証券取引所グループに対して改善報告書を提出している。

 粉飾に至った企業で何が起こっていたのかを知るためには、その企業の内部情報を知る必要があるが、通常はそうした内部情報を会社外部から知ることは容易ではない。しかしながら、粉飾が発覚した企業において調査を行なった際に作成された、「調査報告書」を紐解くことで、企業が粉飾に至った経緯をある程度知ることができる。

 粉飾に至る道筋は様々だ。

 従業員が、経営者の意向を「忖度」することで、粉飾を行なってしまうことがある。従業員が、「経営者を喜ばせたい」「経営者の期待に応えたい」という気持ちを持つのは自然なことだ。経営者が、なんとしてでも業績目標を達成したい、あるいは損失や赤字を回避したいと願っているとき、そうした気持ちは従業員にも反映される。正当な方法で経営者の意向に応えられるのならば問題はないのだが、それが難しい場合に、従業員は粉飾に手を染めてしまうことがある。こうしたケースでは、従業員は私的な利益を求めて粉飾を行なうわけではなく、経営者のため、会社のために粉飾を実行してしまう。

 経営者が自ら粉飾を主導することもある。経営者による不正行為においても、従業員の場合と同様に、「会社を守るため」「上場廃止を回避するため」といった理由で粉飾が行なわれることが多い。粉飾の動機は、従業員による不正と大きく異なるわけではないが、経営者による不正の場合、その職務管掌の範囲が広くなるため、粉飾決算の規模も大きくなる傾向がある。経営者が粉飾を行う場合には、自らの会社や自社の従業員を守りたいという気持ちが強く働く。また、経営者自身の立場を守りたいという、自己保身のために粉飾が行なわれる場合もある。

 粉飾を行なった企業は、少なからぬ代償を支払わなければならない。過年度決算の訂正や行政処分、社内処分などといった直接的な代償ももちろん大きいのだが、それ以上に重くのしかかるのは、その企業が長年積み上げてきた信用を失墜させてしまうことだ。そして、最大にして最悪の代償は、自社が倒産してしまうことである。こうした代償を支払わないためにも、粉飾には決して手を出してはならないのだ。

 粉飾を防止するためには、どのような対応策があるのだろうか。

 拙著「粉飾&黒字倒産を読む」(日本実業出版社)では、様々な企業の事例から、粉飾の防止策を、「①社内におけるモニタリング機能の強化」、「②業務や意思決定プロセスの改善」、「③内部通報制度の活用」、「④コンプライアンス意識の向上」の4つに集約している。それぞれの具体策については、上記の拙著をご参照いただきたいが、これらの施策を組み合わせることで、粉飾が起こる「機会の芽」を摘み取ることが重要だ。

矢部 謙介(やべ けんすけ)中京大学国際学部教授
経営分析、経営財務
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)
1972年生まれ

2021/02/19

  • 記事を共有