企業と人権尊重
「排除の矢印」取り除く努力を

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皆川 治廣 教授

 まず、このタイトルからして、皆さん方の中には、「人権というと抽象的でわかりにくい」「人権尊重のためには何をすればいいのか」といったご意見をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。「人権」とは「人間が人間らしく生きるための権利」であり、例えば表現の自由、思想・良心の自由、プライバシー権などを挙げることができます。「人権尊重」とは、企業を例にすれば、「自分も大切であり、家族も同僚も、そして、職場も大切だと考えることができる、ゆとりある人間関係」と言ってよいでしょう。

 しかし、マスコミ報道などに目を向ければ、残念ながら多方面で、職場でも差別や虐待、いじめ、セクハラやパワハラといった人権侵害も見られます。他人を軽蔑、侮辱、見下すこと、仲間外れにする行為が、まさに人権侵害に他ならないのです。これらは、人間の尊厳を傷つけ、人間の自由を奪い、平等を侵害するものです。

 人権侵害が起きる原因の一つには、「集団性」が挙げられます。人間は、それぞれ自分の個人的・勝手な尺度(ものさし)によって、自己と異質の価値観を有する人を排除したがります。とくに、私たち日本人は「自分たちは同じ」「他の人がやっていることだから」という同族意識を持ちたがります。

 皆さんは、「排除の矢印」という言葉をご存じでしょうか。何かがきっかけとなり、集団から一人の人を排除してしまう矢印が向けられることです。例えば、誰かが「あの人は...だ」と言ったことから、事実関係もよく知らずに、同調した集団が一人の人を排除してしまうことがあるのです。人違いであったり、新型コロナウイルスに見られるように、それが感染者であれ、医療関係者であれ、あるいは、誠にお気の毒な話ですが、昨年には有名女性プロレスラーの方がお亡くなりなったように、何がきっかけで起こるのか、わからないのです。

 誰かを排除しようとする矢印は、いつ自分に向いてくるかもしれません。物事の真理をしっかりと見極めて、他人への「排除の矢印」を自分自身が取り除くことが必要です。そして、「排除の矢印」を向けられた人の心の痛みを理解し、みんなで取り除く努力、行動をすること、いい意味での「集団も力なり」です。

 「自分が言われていやなことは、人に言わない」「自分がされていやなことは、人にしない」。一人一人の人権が尊重され、職場の皆さんが幸福だと感じることがあればあるほど、企業はより一層発展するのではないでしょうか。「たんけん、はっけん、ほっとけん」です。身の回りにどういった問題があるかを発見し、それを見逃さずに、積極的に対話、コミュニケーションを図りながら、全員で解決に向けてまい進していただけたらと思います。

皆川 治廣(みながわ はるひろ) 中京大学法学部・法学研究科教授
公法(憲法・行政法・情報法)
慶應義塾大学大学院法学研究科。博士(法学)
1955年生まれ

2021/02/05

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