公文書は国民共有の財産
民主政治のさらなる発展を
矢切 努 准教授
令和2年度から、文書管理の専門家を認証する「認証アーキビスト」制度がはじまることとなった。9月に行われた受付では、当初の想定を上回る申請があったという。この背景には、近年の行政当局によって行われた公文書改ざん・廃棄など、杜撰な公文書管理問題によって、国民が公文書管理問題に関心を高めたこともその要因の一つといえよう。
アーキビストとは、「公文書館をはじめとするアーカイブズ」で働く専門職員である。そしてアーカイブズとは、公文書などの記録史料が保存・公開される(公)文書館などの施設である。愛知県内では、愛知県公文書館や名古屋市市政資料館などがそれに当たる。だが日本において、いったいどれだけの国民が、これらの施設を知っており、公文書が保存・公開されることの重要性・必要性を理解しているだろうか。
世界各国では、アーカイブズに対する認知度は高く、アーキビストも社会に不可欠で重要な職業だと認識されている。高度の知識と技能を教える教育課程もあり、国家試験などによる公的専門職として認定されているアーキビストは、相対的に高い地位を与えられている場合が多い。これらは、民主政治を実現するために重要な基礎的施設と人的資源の一つである。だが、日本では、アーカイブズに対する認知度は低く、アーキビストの資格制度の不備や社会的地位の低さも問題とされてきた。
「認証アーキビスト」制度は、「公文書管理法」の理念に基づき、「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であり、「国民共有の財産」である公文書などの「適正な管理を支え、かつ永続的な保存と利用を確かなものとする専門職を確立する」目的で、国立公文書館長がアーキビストとしての専門性を認証するものである。
公文書管理の適正化に向けて一石を投じたものといえよう。だが、このような制度のみによって、はたして国民は、公文書が保存・公開されることの重要性・必要性について関心を持ち、理解することができるであろうか。
日本には、欧米諸国のような「タックス・ペイヤーズ」の意識が希薄だといわれる。「タックス・ペイヤーズ」とは、進んで納税はするが、税によって行われる行政を監視し、行政当局に自分たちの福利を守らせる国民である。民主政治は、このような国民によってこそ実現される。しかし、日本では「納税義務」のみが強調され、一般に、税は取られるものであるという考え方をもつ国民が多いのではなかろうか。こうした考え方では、公文書が「国民共有の財産」であるとの意識を国民がもつことは難しい。日本における民主政治のさらなる発展も困難であろう。
「認証アーキビスト」制度の創設を契機に、公文書が「国民共有の財産」であり、行政当局に、現用を含む公文書の適正な管理と公開を行わせ、私たちの福利を守らせるという考え方が、国民に行き渡り、日本における民主政治のさらなる発展につながるよう願っている。
矢切 努(やぎり つとむ) 中京大学法学部准教授
日本近現代法制史
大阪大学大学院法学研究科博士後期課程修了
博士(法学)
1975年生まれ
2020/12/21
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研究・産官学連携
矢切 努 准教授 |
令和2年度から、文書管理の専門家を認証する「認証アーキビスト」制度がはじまることとなった。9月に行われた受付では、当初の想定を上回る申請があったという。この背景には、近年の行政当局によって行われた公文書改ざん・廃棄など、杜撰な公文書管理問題によって、国民が公文書管理問題に関心を高めたこともその要因の一つといえよう。
アーキビストとは、「公文書館をはじめとするアーカイブズ」で働く専門職員である。そしてアーカイブズとは、公文書などの記録史料が保存・公開される(公)文書館などの施設である。愛知県内では、愛知県公文書館や名古屋市市政資料館などがそれに当たる。だが日本において、いったいどれだけの国民が、これらの施設を知っており、公文書が保存・公開されることの重要性・必要性を理解しているだろうか。
世界各国では、アーカイブズに対する認知度は高く、アーキビストも社会に不可欠で重要な職業だと認識されている。高度の知識と技能を教える教育課程もあり、国家試験などによる公的専門職として認定されているアーキビストは、相対的に高い地位を与えられている場合が多い。これらは、民主政治を実現するために重要な基礎的施設と人的資源の一つである。だが、日本では、アーカイブズに対する認知度は低く、アーキビストの資格制度の不備や社会的地位の低さも問題とされてきた。
「認証アーキビスト」制度は、「公文書管理法」の理念に基づき、「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であり、「国民共有の財産」である公文書などの「適正な管理を支え、かつ永続的な保存と利用を確かなものとする専門職を確立する」目的で、国立公文書館長がアーキビストとしての専門性を認証するものである。
公文書管理の適正化に向けて一石を投じたものといえよう。だが、このような制度のみによって、はたして国民は、公文書が保存・公開されることの重要性・必要性について関心を持ち、理解することができるであろうか。
日本には、欧米諸国のような「タックス・ペイヤーズ」の意識が希薄だといわれる。「タックス・ペイヤーズ」とは、進んで納税はするが、税によって行われる行政を監視し、行政当局に自分たちの福利を守らせる国民である。民主政治は、このような国民によってこそ実現される。しかし、日本では「納税義務」のみが強調され、一般に、税は取られるものであるという考え方をもつ国民が多いのではなかろうか。こうした考え方では、公文書が「国民共有の財産」であるとの意識を国民がもつことは難しい。日本における民主政治のさらなる発展も困難であろう。
「認証アーキビスト」制度の創設を契機に、公文書が「国民共有の財産」であり、行政当局に、現用を含む公文書の適正な管理と公開を行わせ、私たちの福利を守らせるという考え方が、国民に行き渡り、日本における民主政治のさらなる発展につながるよう願っている。
矢切 努(やぎり つとむ) 中京大学法学部准教授
日本近現代法制史
大阪大学大学院法学研究科博士後期課程修了
博士(法学)
1975年生まれ
2020/12/21