人の言動を振り回す自尊心
コロナ禍の自尊心と差別

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中原 純 准教授

 心理学で古くから扱われてきた"こころ"の1つに、自尊心がある。自尊心は、家族、友人、その他さまざまな人間関係の中で育まれるものであり、自分は社会的に価値がある、役に立つ存在であると感じていることは、自尊心が高いことを示す。

 端的に表現すれば、自分自身に対して肯定的でいられる程度を指している。また、安定して高い自尊心を持つ人は、不安を抱きにくく、抑うつ性の症状を回避しやすく、我慢強く物事に取り組み、新たなことにチャレンジする傾向にもある。最近では、高い自尊心が知的能力を伸ばすことも指摘されるように、多くのすばらしい利益を私たちにもたらしてくれる。

 また、自尊心を高く保つことで、存在論的恐怖(自分の死は避けることができず、またそれがいつ訪れるかもわからないという認識から生まれる恐怖)を和らげる効果が証明されている。そして、今、まさに世界中がコロナ禍にある中、未知の感染症への恐怖により高まる存在論的恐怖が人々の"こころ"を襲い、それを和らげるために自尊心をより強く求める状況となっているのである。つまり、この漠然とした恐怖を抑え込もうとするがあまり、自尊心への欲求は平時よりも高まっているのである。

 では、人はどのようにして自尊心を高く保とうとするのであろうか。

 "無意識"のうちに陥りがちなことが、自分自身そのものあるいは自身の所属する集団(男性、日本人、〇〇県人、××社員、△△構成員など)の価値を高く認識したいがために、他人や自身が所属しない集団(日本人であれば、他の国の国籍を持つ人)の価値を相対的に低く認識するための言動を行うことなのである。他人の小さな失敗を執拗に叩き、寄付をする人には偽善者と罵り、外国人が起こした問題をことさら大きな社会問題と考えることで、自分の価値を高く認識する。

 こうした言動は、自尊心への欲求を満たすための人間の本能的な行動であるという見方もあるほど、自然なことである。しかし、行き過ぎると、いじめや差別へと発展することは言うまでもない。

 そこで、他人の迷惑にならずに、自尊心を高める方法を考えることになるわけであるが、人の"こころ"とは不思議なもので、こちらは気を付けて"意識"しておかなければ、常に実行することが難しいことばかりである。

 例えば、他人が失敗したときにフォローする、自分から困っている人をサポートする、外国人が起こした問題に寛容な意見を出すことでも、そこに関わる人から「ありがとう」という声掛けを受けるなどすれば、自尊心は高まる。お気づきのように、同じ状況や場面でも"意識"して行動することで自尊心を高めれば、誰にも迷惑をかけることなく、むしろ感謝されつつ、自尊心を高めることが可能である。

 コロナ禍だからこそ、人がどれだけ"意識"して、存在論的恐怖に対応できるか、が求められている。

中原 純(なかはら じゅん)中京大学現代社会学部准教授
高齢者心理学、社会心理学
大阪大学大学院修了
博士(人間科学)
1980年生まれ

2020/11/05

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