オリンピックとスポーツ法の世界
スポーツ法からみるオリンピックの世界

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石堂 典秀 教授

 コロナウィルスの影響で、オリンピックが延期され、来年の開催も危ぶむ声も聞かれます。今回は、オリンピックをめぐる法の世界について少しお話をしたいと思います。オリンピックは、選手・関係者だけで2万人近くの人が参加することになりますが、この大会に参加するには、正式には、各国のオリンピック委員会(NOC)からの推薦に基づいて国際オリンピック委員会(IOC)の承認が必要になります。現在、IOCが承認したNOCは206団体ありますが、国連加盟国193か国を上回っています。これは、IOCが独自に「国家」を承認してきた経緯があります。

 IOCは、スポーツ界の憲法と呼ばれるオリンピック憲章を制定しています。オリンピック憲章には、オリンピックの根本原則の他、国際競技団体やNOCの役割についても規定しています。この憲章に違反した選手、団体は処分を受けることになります。

 このIOCの処分に不服がある場合には、スポーツの裁判所があります。IOCは、1984年にIOC本部があるスイスのローザンヌにスポーツ仲裁裁判所(CAS)を設立しました。仲裁は、裁判のように、仲裁人が判断を下しますが、裁判と異なるのは迅速な紛争解決をする点です。CASには、ドーピング違反、代表選考の決定や懲戒処分に対する不服申立てなど様々な事件が持ち込まれます。IOCバッハ会長は、弁護士資格を持っていまして、以前はこのCAS控訴部の長を務めていました。オリンピック開催期間中には、大会会場付近で臨時の仲裁廷が開かれ、申立から24時間以内に仲裁判断が示されます。

 このようにスポーツ界には、IOCを中心としてまるで1つの国家のように立法、行政、司法機関が存在しているのです。

 現在、IOCは、人権に配慮した大会づくりに向け大きく舵を切ろうとしています。IOCは、2024年のパリ大会から「ビジネスと人権」を取り入れた大会作りを目指しています。2011年に国連人権委員会で「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」が採択されました。この指導原則のもと、企業は、発展途上国などのサプライチェーンを含めて児童労働、強制労働、低賃金・長時間労働などの問題を発生させないように全ての生産工程を管理することが求められています。IOCは、オリンピックを通じて、開催地とサプライチェーンで繋がる発展途上国での人権侵害を防止する仕組みを作ろうとしています。すでに東京大会でも調達コードを作成し、組織委員会が調達する物品・サービスに関する通報窓口を設置しました。

 ところで、今年の7月に国際 NGOヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本の部活動の根深い体罰文化を示す調査報告書を公表しました。バッハ会長は、日本における体罰・ハラスメントの根絶の取り組みに全面的に協力すると発言しています。今年は、パワハラ防止法も施行されました。オリンピック開催地として、この問題は日本社会全体として取り組む課題といえます。

石堂 典秀(いしどう のりひで) 中京大学スポーツ科学部教授
スポーツ法 中京大学法学研究科(修士)
1964年生まれ

2020/09/28

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