運動器の傷害と体幹機能
スポーツ傷害とロコモの予防

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清水 卓也 教授

 スポーツ分野において、パフォーマンス向上や傷害予防の観点から、体幹機能の重要性が唱えられ始めて20年以上になる。アスリートでは、椎間板ヘルニアなどが若年者でもよく見られるが、一般社会でも、中高年の椎間板ヘルニアや脊柱菅狭窄症など骨軟骨の老化による傷害が問題となっている。
 傷害を起こす選手と起こさない選手の間には、どのような違いがあるのかについては、「腹横筋などのインナーマッスルがうまく収縮しないと腰痛が生じやすい」という、間接的な証拠が多く発表されている。体幹の骨格筋はインナーマッスルとアウターマッスルに分けられる。しかし、厳密にこれらを分類する理論はまだ存在していないのが現状であり、どのようなトレーニングが、スポーツにおける骨軟骨に傷害を与えず、保護的に作用するのかは、現時点では完全に解明されていない。また。この理論は、老化による骨軟骨傷害にも適応できる可能性が大きい。

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 少なくとも現時点で言えることは、アウターマッスルは、図のように腰椎を越えて骨盤と胸郭を結ぶ骨格筋で、前方は腹直筋、後方は脊柱起立筋などからなる。これらが収縮すれば、胸郭と骨盤が接近し、まず椎間板が圧迫され、脊柱のカーブが増大し、身長の低下やヘルニアや脊柱菅狭窄症誘発する原因のひとつになり得る。さらに、ゴルフや野球で体幹を回旋させる動作を考えると、腹直筋は体幹の回旋がニュートラルの位置で最も短縮しているので、アウターマッスルはニュートラルの位置までは能動的に回旋させることが可能であるが、ニュートラルの位置から更に回旋を増加させようとすると、回旋を抑制し、体幹の回旋パフォーマンスの障害となる。
 しかし、一部の体幹トレーニングはこれらのアウターマッスル、特に腹直筋を鍛えていることが多く、これにより腰痛が悪化したり、体幹の回旋運動を主体とする投球やゴルフの調子を崩したりする選手を診療の場でよく経験する。我々の現在の研究課題は、インナーマッスルが、具体的にどのような方法で有効にはたらくかを明らかにすることであり、その鍵は、腹圧を形成する腹横筋や横隔膜(単なる膜ではなく随意収縮する骨格筋)にあると推測している。腹圧を使って、姿勢を整え、体幹機能をインナーマッスル優位に変えることで、スポーツ傷害の予防のみならず、パフォーマンスの向上、姿勢の老化やロコモティブシンドロームのの予防及び治療への展望が開けると考えている。

清水 卓也(しみず たくや)中京大学スポーツ科学部教授
整形外科学 スポーツ医学
名古屋大学医学部医学科
1957年生まれ


 体幹機能は、①椎間板を含む脊柱、骨盤、胸郭の骨格系、②筋肉系、③神経系から成り立っている。この中で傷害を起こしやすいのは①骨格系である。

2020/09/04

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