ふっと魔がさす不正の原因
不正のトライアングル理論の視点から

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谷口 勇仁 教授

 ここ10年でコンプライアンスという用語をよく目にする、また、耳にするようになった。
 コンプライアンスとは、企業が法律、社内規則、社会規範を順守することを指しており、従業員の不正を防止するために、企業行動規範の制定、コンプライアンス研修の実施、倫理ホットラインの設置など、企業ではコンプライアンスに関する多様な取り組みが行われている。読者の多くも、このコンプライアンスの研修を受講した経験があるだろう。
 では、このコンプライアンスに関する取り組みの基盤となる理論にはどのようなものがあるのだろうか。
 今回は、会計分野、金融分野で広く知られている不正のトライアングル理論を紹介してみたい。
 不正のトライアングル理論は、米国の犯罪学者であるクレッシーが1953年に発表した研究を基に、1991年に会計学者のアルブレヒトによって体系化された。

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 不正のトライアングルとは、左図のように、個人が不正に関与する際の条件として、①認知された圧力,②認知された機会,③合理化の3つを提示するものである。
 認知された圧力とは、不正を起こす動機として理解されている。具体的には、リストラの可能性、過大な売上ノルマ、周囲に相談できない借金などである。
 認知された機会は、不適切な管理体制・チェック体制により不正が発覚する可能性が低いと認識することである。具体的には取引記録体制の不備などを指す。
 合理化とは、不正を起こす前に、不正を起こすことを自らの価値観や信念と矛盾しないように正当化することを指す。具体的には「私はこのお金を盗んだのではない、借りただけですぐ返すのだ」、「この不正によって誰も損をしていない」などである。
 この3つの条件が揃うことによって従業員が不正に関与してしまう可能性が高まり、不正を防止するためにはこの3つの条件が揃わないようにすることが重要であるというのが不正のトライアングル理論の主張である。
 今から50年以上も前に提示された理論であるが、現在でも多くの分野で利用されている理論である。例えば、2017年に発覚した商工中金の不祥事に関する第三者委員会の調査報告書の中にも不正のトライアングルに関する記述が見られる。
 また、アルブレヒトは、不正のトライアングル理論は学生のカンニングや自動車のスピード違反などの不正にも適用可能であると主張している。
 読者の皆さんも、不正のトライアングル理論の視点から、組織のコンプライアンス体制、部下のマネジメント、そして、自らの状況を見直してみてはいかがだろうか。

谷口 勇仁(たにぐち ゆうじん)中京大学経営学部 教授
企業倫理,コンプライアンス
名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了
博士(経済学)
1967年生まれ

2020/06/30

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