人と共生する赤ちゃん型ロボット
共生ロボットの新展開

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加納 政芳 教授

 少子高齢化が進む我が国では、人手不足に伴う省人化需要が増している。人手を補う手段として自動化が考えられるが、近年の人工知能ブームも相まって、その傾向は高まっている。特に産業ロボット分野では、単に動作速度や精度を競うだけではなく、職人がセッティングしてきたロボットの設定や、熟練技術の自動化など、生産技術の中核の一部分を補うことができつつある。さらに、安全性も高まれば、人とロボットが協働して生産ラインを支える環境も整ってくると考える。

 上記のように、産業分野においては、ロボットの活躍はめざましいが、我々の生活環境内で接するロボットの開発はどうであろうか。PepperやRoombaなどは読者の方も一度は目にしたことがあるであろう。しかしながら、それら以外のロボットを思い出そうとしても、なかなか思いつかないのが現状である。特に会話ロボットについては、すぐさま登場するという期待とは裏腹に、ほとんど登場していないのが現実である。それは、会話ロボットには大きな課題があるためである。一点目は、ニーズの問題である。産業用ロボットには明らかな用途があるように、Pepperであれば受付や案内、Roombaであれば掃除といった役割があるが、会話型ロボットには明確な役割がない。言い換えるならば、会話するという機能に対して10万円を超える金額を支払うメリットをユーザが感じない、ということである。二点目は、一般的な会話(雑談)が難しいという点である。最近、雑談をターゲットにした人工知能会話システムも登場しつつあるが、自然な会話を実現できているかといえば、十分とはいえないのが現状である。本研究室では、これらの問題点の解決を目指しつつ、人間共生型ロボットの開発を進めている。本稿ではその中でも特に、赤ちゃん型ロボットを紹介したい。

 一般的に、ロボットと人の会話は、ロボットが人の発話内容や感情を理解することで成立する。一方で、赤ちゃん型ロボットとの会話では、人がロボットのことを理解することで心理的交流が実現される。人の新生児には、(1)一方的な発話が許される(周知の事実としてそのように認知されている)、(2)表情や音声による多様な情報発信が可能である、という特徴があるからである。また、新生児には、世話をされる対象の象徴である。人がロボットを世話したいという気持ちをいだくために、赤ちゃん型ロボットには、笑ったり喜んだりするだけではなく、泣いたり機嫌が悪くなるなどの心理的・生理的状態を表出する人工知能が搭載されている。赤ちゃん型ロボットと共に生活することによって、高齢者の抑うつ度が軽減されることが示唆されている。

 赤ちゃん型ロボットは、高齢者だけではなく、妊婦に対する育児疑似体験ロボットとして用いることや、小学生などの子どもたちの徳育への利用などが考えられる。また、新生児のもつ「心を安定させる効果」「世話を要求することによる人への心理効果」にも注目すれば様々な応用が考えられる。

 

加納 政芳(かのう まさよし) 中京大学工学部機械システム工学科教授
知能ロボティクス、感性ロボティクス
名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了
博士(工学)
1976年生まれ

2020/03/03

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