アプリで困り事の解消を
分野の連携で誰もが生きやすい社会を

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曽我部 哲也 准教授

 小さい頃の通知表、特に「所見欄」を覚えているだろうか。そこには、生活態度や友達との交流など、学力とは異なる内容が記載されていたかと思う。例えば、図書の貸出係を積極的に務めたといった評価や、2学期からは忘れ物をしないようにといった改善点などである。
 この所見欄にあった「できていること」「できていない事」、今ではどうだろうか。できていた事は継続し、できていなかった事は誰かのアドバイスや自分なりの工夫で改善したり、あるいはギリギリできている項目があるかもしれない。こうした社会性やコミュニケーションは年齢と共に複雑化していき、他人による客観的な評価もされにくい。
 最近耳にすることが多くなった大人の発達障害や、発達障害の診断基準を満たさないがそうした傾向を持ついわゆる発達障害グレーゾーンの方には、社会性やコミュニケーションといった部分に課題を抱えていることが多い。
 こうした課題は、本人の自己評価と周囲の評価のズレからおきることも多い。衛生状態を例にあげると、自分の衛生状態が充分だと思っていても周囲は不十分と感じていればズレとなる。このズレをどう認識するか、どこまでやれば及第点なのか、互いにどこまで歩み寄れるかを理解してもらう事がズレの解消につながるのだが、具体的な指標が無ければ検討もしにくい。このズレを「見える化」することが必用とされている。
 当研究室では、現代社会学部や心理学部、ほかの大学や全国各地の支援団体、発達障害を持つ当事者らに加わっていただき、発達障害成年を支援するアプリの開発に参画している。
 現在試行中であるこのアプリでは、発達障害を持つ当事者の困り事を見つけ出しグラフとして表示し、さらに保護者や支援者と当事者との認識のズレも表示することができる。通知表の所見欄を、アプリが書いてくれるようなものだ。
 また、グラフを用いて見える化をすることで、「出来ているから維持をする」「あと少しで目標値に達する」といったことが視覚的に理解できる。視覚的に困り事が分かることで、今後の支援についても本人から同意を得やすく、また、支援者にとってはどういった面をどの程度支援すればいいのかの手がかりとなる。
 誰もが情報機器を持つ事で、個々の情報を個々に集約することが可能になった。これまで計測が難しかった心や、人との関係といった分野にも見える化などでより良い介入が可能と考えられる。
 現在、製薬会社などでは、アプリやゲームなどを使って生活習慣や本人の困り事を改善する仕組みを開発しており、「デジタル薬」や「デジタルメディスン」と呼ばれている。デジタル薬にはIoTやゲーム、VRなどの産業が参入しはじめており、心理学や福祉、情報工学やエンターテイメントが結びつくことで今後の成長が期待される分野である。

曽我部 哲也(そがべ てつや) 中京大学工学部准教授
メディアアート、京都市立芸術大学博士後期課程満期退学
1973年生まれ

2020/02/14

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