政策に法と経済学的思考を
モラルに頼った制度がモラルを崩壊させる

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佐藤 茂春 准教授

 経済学は経済を研究する学問だと思われていると思う。しかし、経済学には経済ではなく、法や政治を研究する分野もある。法と経済学や政治の経済分析などである。私はこれらを専門としており、経済学を用いて法や政治を考えることには大きな意義があると思っている。以下では、ふるさと納税を題材にそのことを少し説明したい。

 ふるさと納税の制度で多くの寄付金を集めることに成功した泉佐野市などが新制度から除外されることとなった。ふるさと納税は地域の活性化のために作られた制度だと言われているが、実際には地域同士の返礼品競争を招き、自治体全体としては財政を厳しくする結果となっていた。そのため、総務省は返礼品の金額を抑えるような通知を再三行なった。

 私が特に問題と考えるのは、このような通知による対処である。返礼品に対する法的な規制がないままの通知の結果、通知に従い過剰な返礼品を辞めるかどうかは各自治体の判断に任されてしまった。通知に従った自治体もあったが、通知に従う法的義務はないため、行政との関係悪化を厭わない自治体は通知によって過剰な返礼品をやめた自治体のおかげで、より多額の寄付を集めることができたと思われる。グラフからわかるように、通知が繰り返された平成27年度以降、通知に従わないと名指しされた12の自治体への寄付額、シェアが急増しており、通知に従わないことが大きな利益となった。これを知った自治体の中には追随する自治体が出ても不思議ではない。つまり、「通知」という従来のモラルに頼った制度がそのモラルを崩壊させているのではないか。

 そこで、法と経済学的思考が有用である。法と経済学思考とは、法制度によって人や組織の行動がどのように変化するかを予測することである。

 ふるさと納税では通知が事態を悪化させたわけだが、解決策は事後的な通知ではなく、事前のルール(法制度)設計が重要である。適切なルールを設計するにはルールによる行動変化を予測しなければならない。

 ふるさと納税に限らず、法制度を作る段階では、その影響を予測、検討することが重要であり、どのような法制度が社会をより良くするのかを中心に議論がなされている法と経済学はその助けとなるだろう。

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[グラフ: 総務省ホームページのデータより筆者作成]

佐藤茂春(さとう しげはる)中京大学総合政策学部准教授

法と経済学、政治経済学。
九州大学大学院経済学府博士課程修了。博士(経済学)。
1979年生まれ。

2019/11/27

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