契約法の「現代化」と「課題」
改正後も残る解釈上の課題
大原 寛史 准教授
2017年5月、民法(債権関係)改正法案(「民法の一部を改正する法律案」)とその整備法案が参議院本会議において可決・成立した。いわゆる「債権法改正」である。2020年4月1日施行であり、その日が刻々と迫っている。
この改正は、債権に関する規定のみならず、他の関連する規定も多く対象となっている。もっとも、改正対象をより正確に捉えるとすれば、実質的な意味での「契約法改正」である。伝統的な理論は、「債権」について、その構造や効力を中心に検討してきた。そのため、その発生原因から切り離された抽象的なものとなっていた。それを克服すべく、代表的な発生原因である「契約」から理論的に再構成し、「現代化」を試みるものである。改正規定において「契約その他債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という文言がみられるのも、その現れである。
この文言は、債権の効力や債務者の責任が問題となる各場面において、判断基準として機能することになる。もっとも、最終的にこの文言を採用した経緯をみてみると、学者を中心とする「現代化」を目指す理論と、実務が前提としてきた伝統的な理論との衝突を解消する目的があったことが指摘できる。
この文言をどのように解釈すべきか。改正議論においては、次のような理解が主張された。すなわち、「契約その他の債権(債務)の発生原因」と「取引上の社会通念」については、「及び」で結ばれている。もっとも、そこにおいては、「契約その他の債権(債務)の発生原因」から契約規範の内容を導くことができたときは、それを「取引上の社会通念」で上書き・修正することを認める意図はない。あくまで、契約規範の内容を導くにあたって当事者の主観的事情とともに客観的事情も考慮されうることを示すための表現であるという。「現代化」の経緯、また、改正規定に関する解説の類における引用の頻度からしても、今後の解釈の指針となる可能性は十分にある。
しかしながら、上記の経緯のもと、衝突していた「現代化」を目指す理論が重要視する「契約」という発生原因と、伝統的な理論において用いられてきた「取引上の社会通念」とを整合的に理解しようとすると、「契約」に基づいて判断するが、その限界があるときには「取引上の社会通念」に基づいて判断することも可能であり、文言上は否定されないはずである。「取引上の社会通念」についてみると、まさに「契約」規範の内容を導くにあたっての解釈の基準として用いるという解釈はもちろん、より積極的に実体的な基準として用いるという解釈の可能性も排除されるわけではない。前者によると、「取引上の社会通念」をもとに「契約」規範の内容が確定される可能性があることになり、後者によると、「契約」規範とともに、あるいは「契約」規範とは別の規範として――相互の調整の問題は残るものの――機能することになる可能性があることになる。
改正規定において、どのような解釈を採用するか。この文言における判断構造の明確化も、「現代化」に残された重要な「課題」の一つである。
大原 寛史(おおはら ひろふみ)中京大学法学部・法学研究科准教授
民法。
同志社大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得後退学。
1984年生まれ。
2019/10/02
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大原 寛史 准教授 |
2017年5月、民法(債権関係)改正法案(「民法の一部を改正する法律案」)とその整備法案が参議院本会議において可決・成立した。いわゆる「債権法改正」である。2020年4月1日施行であり、その日が刻々と迫っている。
この改正は、債権に関する規定のみならず、他の関連する規定も多く対象となっている。もっとも、改正対象をより正確に捉えるとすれば、実質的な意味での「契約法改正」である。伝統的な理論は、「債権」について、その構造や効力を中心に検討してきた。そのため、その発生原因から切り離された抽象的なものとなっていた。それを克服すべく、代表的な発生原因である「契約」から理論的に再構成し、「現代化」を試みるものである。改正規定において「契約その他債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という文言がみられるのも、その現れである。
この文言は、債権の効力や債務者の責任が問題となる各場面において、判断基準として機能することになる。もっとも、最終的にこの文言を採用した経緯をみてみると、学者を中心とする「現代化」を目指す理論と、実務が前提としてきた伝統的な理論との衝突を解消する目的があったことが指摘できる。
この文言をどのように解釈すべきか。改正議論においては、次のような理解が主張された。すなわち、「契約その他の債権(債務)の発生原因」と「取引上の社会通念」については、「及び」で結ばれている。もっとも、そこにおいては、「契約その他の債権(債務)の発生原因」から契約規範の内容を導くことができたときは、それを「取引上の社会通念」で上書き・修正することを認める意図はない。あくまで、契約規範の内容を導くにあたって当事者の主観的事情とともに客観的事情も考慮されうることを示すための表現であるという。「現代化」の経緯、また、改正規定に関する解説の類における引用の頻度からしても、今後の解釈の指針となる可能性は十分にある。
しかしながら、上記の経緯のもと、衝突していた「現代化」を目指す理論が重要視する「契約」という発生原因と、伝統的な理論において用いられてきた「取引上の社会通念」とを整合的に理解しようとすると、「契約」に基づいて判断するが、その限界があるときには「取引上の社会通念」に基づいて判断することも可能であり、文言上は否定されないはずである。「取引上の社会通念」についてみると、まさに「契約」規範の内容を導くにあたっての解釈の基準として用いるという解釈はもちろん、より積極的に実体的な基準として用いるという解釈の可能性も排除されるわけではない。前者によると、「取引上の社会通念」をもとに「契約」規範の内容が確定される可能性があることになり、後者によると、「契約」規範とともに、あるいは「契約」規範とは別の規範として――相互の調整の問題は残るものの――機能することになる可能性があることになる。
改正規定において、どのような解釈を採用するか。この文言における判断構造の明確化も、「現代化」に残された重要な「課題」の一つである。
大原 寛史(おおはら ひろふみ)中京大学法学部・法学研究科准教授
民法。
同志社大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得後退学。
1984年生まれ。
2019/10/02