スポーツ観戦とまちづくり
アクセスは移動だけでなく情報も

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伊藤 葉子 准教授

 

 今後、国際的なスポーツイベントが国内及び愛知県下にて開催される。来月から始まるラグビーワールドカップ、来年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会、そして2026年には愛知・名古屋アジア競技大会が予定されている。

 こうした国際イベントを一過性のスポーツイベントで終わらせるのではなく、まちづくりに活かすことが求められている。これは、オリンピック憲章に記されている「オリンピック競技大会の有益な遺産を、開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励する」ことにもつながる。スポーツをはじめとする文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加は、年齢、性差、障害の有無等を超えて誰もが享受されるべき権利だ。このことは、2016年に国連で採択され、日本も批准している「障害者の権利に関する条約」第30条や国の障害者基本法第3条にも規定されている。参加は、ただその場にいるだけでなく、一員として加わり、行動を共にすることだ。このことは、スポーツを「する」だけでなく「観る」ことにおいても同様だ。

 国は、東京オリ・パラ大会の開催を契機とした共生社会の実現、高齢者、障害者等も含んだ一億総活躍社会の実現の必要性を背景に、改正バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律)を2018年に可決、成立させた。同法では、事業者に対し、施設整備、旅客支援、情報提供、教育訓練、推進体制等、ハード面だけでなくソフト面も盛り込んだ計画の作成と取り組み状況の報告・公表を求めている。また、旅客施設及び車両等については、貸切バスや遊覧船等についても法の適用対象に追加した。さらに、地域における重点的・一体的なバリアフリー化の推進と国民の理解・協力の推進等に加え、高齢者、障害者等の関係者による定期的な状況把握と評価を盛り込むことで、全ての人々が安心して生活・移動できる環境の実現を目標に掲げている。

 観戦当日の会場までのアクセス、実際にスポーツ観戦をする会場を例に考えてみよう。観戦会場までのアクセスは、交通機関の乗り換え動線の問題、案内表示のわかりにくさ、駐車場から会場までの距離等に困難があることがよく指摘される。高齢者や障害者、小さなこどものいる家族等は会場にたどり着くだけで疲れきってしまうこともある。会場では、前席の人が立ち上がったり、目の前の手すりによって視界が遮られたりしないようサイトラインの確保が必要だ。新設や改修時には利用者参画によるモックアップ(実物同様の模型)等による動線や視界の検証が事前に必要だ。また、会場でのアナウンス等の音声情報が電光掲示板やスクリーン、スマホやタブレット等の手元の情報端末に文字で表示されるといった情報保障があれば音声が聞こえない、聞こえにくい人のスポーツ観戦をより充実したものにする。整備が進む多目的トイレ使用についてのマナーも指摘される。そこしか使用できない人がいることに留意し、みなでスポーツの祭典を盛りあげ、有益な遺産としたい。

伊藤 葉子(いとう ようこ)中京大学現代社会学部 准教授

社会福祉学。
日本福祉大学大学院修士課程修了。博士(社会福祉学)。
1969年生まれ。

2019/08/22

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