選手の心と動きの変化
実験室で再現するスポーツ現象の本質
山田 憲政 教授
床に置いた平均台なら技を繰り出せるのに、それが試合で用いる1.2mの高さを持つと上手くいかない。
これは、選手の心と動きの変化の一例であり、これまでスポーツ心理学という領域で研究されてきました。そこでは、選手からその時の心理状態を質問紙を用いて聞き出すという方法が主に用いられてきました。しかし、既に運動し終わった心と動きの状態を正確に振り返ることができるでしょうか?
そこで、この現象を次のように実験室で再現してみました。これまで2つの目標をタッピングする時、目標間の距離と目標の面積が同じであれば、同じ動きが生じると考えられてきました。実験では図に示す様に、平面と立体の2つの目標を20秒間素早く交互にペンでタッピングしました。その際、距離や面積は毎回変化させました。すると、平面では10回に1回くらいの割合で目標からペンがはみ出したのですが、立体では一回もはみ出しませんでした。さらに、ペンの軌道は毎回少しずつ異なり、そのバラツキは平面試技の方が大きくなったのです。また、目標に到達する直前に手が急激に減速してそのバラツキが減少することが分かりました。そしてこれらの特徴を、軌道の変化から運動中の人間の情報処理量を算出することで定量化しました。その結果、立体試技の情報処理量が平面試技のそれより減少していることが分かりました。さらに、平面試技でも目標の面積を小さくしていくと、立体試技の結果に近づいたのです。つまり立体試技では、動きの精度を上げると生じる動きがいつでも生じていたと言えます。
試合で選手は、失敗できないという心理状態になる傾向があります。その心の変化は動きの精度を上げることに相当します。この実験結果から、試合でその様な心理状態になると、物理的環境が同じにも関わらず動きの情報処理状態が変化し、その結果普段通りの動きが出来ない可能性があると言えます。
このように私たちの研究室では、スポーツの様々な場面で観察される興味深い現象を実験室で再現する試みをしています。そして、従来の学問原理の境界を越えた創造的な手法を模索しながら、その現象の背後にある原理の解明に挑戦しています。
山田 憲政(やまだ のりまさ)中京大学スポーツ科学部 教授
スポーツ認知行動科学
筑波大学大学院体育学研究科 博士(教育学)
1960年生まれ
2019/08/02
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研究・産官学連携
山田 憲政 教授 |
床に置いた平均台なら技を繰り出せるのに、それが試合で用いる1.2mの高さを持つと上手くいかない。
これは、選手の心と動きの変化の一例であり、これまでスポーツ心理学という領域で研究されてきました。そこでは、選手からその時の心理状態を質問紙を用いて聞き出すという方法が主に用いられてきました。しかし、既に運動し終わった心と動きの状態を正確に振り返ることができるでしょうか?
そこで、この現象を次のように実験室で再現してみました。これまで2つの目標をタッピングする時、目標間の距離と目標の面積が同じであれば、同じ動きが生じると考えられてきました。実験では図に示す様に、平面と立体の2つの目標を20秒間素早く交互にペンでタッピングしました。その際、距離や面積は毎回変化させました。すると、平面では10回に1回くらいの割合で目標からペンがはみ出したのですが、立体では一回もはみ出しませんでした。さらに、ペンの軌道は毎回少しずつ異なり、そのバラツキは平面試技の方が大きくなったのです。また、目標に到達する直前に手が急激に減速してそのバラツキが減少することが分かりました。そしてこれらの特徴を、軌道の変化から運動中の人間の情報処理量を算出することで定量化しました。その結果、立体試技の情報処理量が平面試技のそれより減少していることが分かりました。さらに、平面試技でも目標の面積を小さくしていくと、立体試技の結果に近づいたのです。つまり立体試技では、動きの精度を上げると生じる動きがいつでも生じていたと言えます。
試合で選手は、失敗できないという心理状態になる傾向があります。その心の変化は動きの精度を上げることに相当します。この実験結果から、試合でその様な心理状態になると、物理的環境が同じにも関わらず動きの情報処理状態が変化し、その結果普段通りの動きが出来ない可能性があると言えます。
このように私たちの研究室では、スポーツの様々な場面で観察される興味深い現象を実験室で再現する試みをしています。そして、従来の学問原理の境界を越えた創造的な手法を模索しながら、その現象の背後にある原理の解明に挑戦しています。
山田 憲政(やまだ のりまさ)中京大学スポーツ科学部 教授
スポーツ認知行動科学
筑波大学大学院体育学研究科 博士(教育学)
1960年生まれ
2019/08/02