若者はなぜ自民党を支持するのか
「勝ち組」と「あきらめ」の論理

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松谷 満 准教授

 

 選挙後ということもあり、若者と政治について筆者の調査研究を紹介したい(吉川徹・狭間諒多朗編『分断社会と若者の今』<大阪大学出版会、2019年>に収録)。

 安倍晋三自民党政権が長く続いているが、マスコミや研究者のなかには自民党支持層の変化を指摘する声がある。近年、自民党を支持する若者が増えているというのである。選挙の出口調査、各種世論調査で若者の自民党支持増加は繰り返し確認されている。

 今でも自民党支持者は高齢者に多い。しかし、20~30年のスパンでみるならば、高齢者の自民党支持は減少傾向にある。ところが、若者ではむしろ増加傾向にあるのだ。

 もちろん、野党が弱すぎるとか、知っている政党が自民党しかないのだとか、いろいろな解釈はできるだろう。しかし、政党支持研究の常識からすると、若者は(1)変革をめざすラディカルな政党(ヨーロッパであれば緑の党や極右政党)に関心を向けがちであり、(2)そうした党がない場合、どの政党も支持しない「無党派」層になりがちである。つまり、若者の自民党支持はこれまでの常識にあてはまらない不可解な現象といえるのだ。

 この疑問を解消すべく、1990年代前半と2015年の全国意識調査データを用い、変化の背景を追った。この20年間の変化としてまず指摘できるのは、若者のなかでもとくに大卒男性、大企業に勤めるホワイトカラー層が自民党支持を強めていることである。つまり、「勝ち組」の若者=自民党支持が現在のトレンドなのだ。

 また、価値観からみると、自民党を支持する若者には次の三つの特徴がある。第一に、競争に勝った者が偉いという「勝ち組」の論理(新自由主義)である。これはとくに大卒の若者に多い。第二に、環境保護よりも経済成長を重視している(物質主義)。これはとくに若い男性に多い。第三に、「どうせ努力しても報われない」という「あきらめ」の意識(宿命主義)である。これらはいずれも20年前と比べると広く若者に浸透しており、それゆえに自民党支持が強まっているのだと考えられる。

 背景にはやはり、日本経済の停滞感があるだろう。多くの人は日本経済および自らの経済的安定について悲観的な見通しをもっている。その影響を直に受ける若者は他人(負け組)や環境のことなどかまってはおれないし、今ある政治秩序にしぶしぶ従うしかない。そうした意識を背景にして安倍自民党長期政権は成り立っているのである。

 結論はこうである。かつての自民党は旧い世代の伝統的価値観に寄りそった政党であったが、いまや「勝ち組」に寄りそう「ブルジョア」政党になりつつある。では「負け組」の代弁者は誰か。現状の野党はその任を果たしえない。おそらくは諸外国でみられるようなポピュリスト政党が立ち現れてくるに違いない。世論調査の結果は、そのような時代の変化を確かに指し示しているのである。

松谷 満(まつたに みつる)中京大学現代社会学部 准教授

社会意識論
大阪大学大学院修了
1974年生まれ

2019/07/25

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