危険な大人の食物アレルギー
大学における疾患対策

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坂本 龍雄 教授

 わが国では依然としてアレルギー疾患が増え続けており、乳幼児から高齢者まで国民の2人にひとりは何らかのアレルギー疾患を有していると言われている。このような状況を改善するため、2014年にアレルギー疾患対策基本法が公布され、現在は都道府県毎にアレルギー疾患対策が検討されている。大学においては、学内のアレルギー事故を防止するための施策・体制を早急に整備することが第一に求められている。

 食物アレルギーはアナフィラキシーの原因となり、稀ではあるがショックや死に至ることがある。大人の有病率は10%に達すると推定されており、アナフィラキシー事故が急増している。大人の食物アレルギーの多くは新規に発症するため(おいしく食べれていたのに突然食べれなくなる)、おうおうにして診断や治療に手間取る。さらに、食後の運動や解熱鎮痛剤などが長く潜伏していた食物アレルギーを活性化し、予期しないアナフィラキシーを引きおこすことがある。日本小児アレルギー学会の食物アレルギー診療ガイドラインによれば、大人の場合の新規発症の原因食物で最も警戒すべきは小麦であり、次いで魚類、甲殻類、果物の順となっている。大人の食物アレルギーの急増はキャンパスライフの安全・安心を脅かす新たな要因になっている。

 大学における必須の食物アレルギー対応として、1)アドレナリン自己注射器「エピペン」の普及と「エピペン」所持者の全数把握、2)アナフィラキシー発生時に本人だけでなくすべての学生・教職員が「エピペン」を正しく使用できるようにしておくこと、3)食べれていた食物、薬剤、ハチ毒、運動などにも及ぶ、アナフィラキシーのすべての原因を回避することは不可能であり、アナフィラキシー緊急時対応マニュアルを策定して全構成員に周知することが重要と思われる。しかし、愛知県内の大学を対象とした食物アレルギー対応に関する実態調査では、「エピペン」を所持する学生に関する情報収集を行っている大学は半数に満たず、アナフィラキシー緊急時対応マニュアルの整備の遅れも深刻であった(中京大学体育学論叢 第57巻、2017年)。一刻も早くこうした現状を改善しなければならない。

 大学は、アレルギー疾患対策に関する最新の科学的知見を国民に発信する情報センターとしての役割も担っている。スポーツ科学分野においては、競技スポーツ環境に適した食物アレルギー対応を整備すること、耐久トレーニングが引きおこすアスリート喘息の予防や診断方法を確立すること、屋外競技者の花粉症対策を推進すること、アトピー性皮膚炎をもつアスリートのためのスキンケアを開発することなどが切実な研究課題となっている。大学はこれらの研究課題に積極的に取り組むとともに、最前線の情報を収集して広く発信することが期待されている。

坂本 龍雄(さかもと たつお)中京大学スポーツ科学部教授
名古屋大学医学部 医師、医学博士
アレルギー疾患学、スポーツ健康科学
1956年生まれ

2019/06/03

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