ゲーム理論から見た米朝関係
膠着状態打破の糸口は何か?

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佐藤 祐司 教授

 

 今年2月にハノイで開催された米朝会談は物別れに終わり、核や拉致問題解決への進展を期待した我々は、またしても肩を落とすこととなった。北朝鮮を取り巻く状況は、何故かくも長期に亘り膠着状態に陥ったままなのか。本稿では、国際政治学とは少し異なる視点から米朝関係を考察してみたい。

 表題に挙げたゲーム理論は、複数の主体が関わる意思決定問題や行動の相互依存関係を、数学モデルを用いて考察する学問である。自分の利害が、自らの行動のほか他者の行動にも依存するあらゆる状況を分析の対象とするため、戦略的思考を必要とする様々な分野で活用されている。

 現在の米朝関係をゲーム理論に倣うと下図のように表すことができる。ここでは両国の選択肢を、アメリカ:〈抑止・安心供与〉、北朝鮮:〈核保有・非核化〉とし、4通りの結果(①~④)に対する両国の選好順序を示した。①と④に対する北朝鮮の選好は定かではないため、A・(B)の2タイプを仮定している(これらの選好順序に関しては、読者諸賢にも首肯して頂けるものと思う)。

 交渉が1度限りの場合、北朝鮮の選好順序がA・(B)何れであっても、双方が利己的に行動すると、結果は〈抑止〉と〈核保有〉の組み合せ(①)に落ち着く。これは、自ら行動を変えようとする誘因が発生しない自己拘束的な状況であり、ナッシュ均衡とよばれる。他方、選好順序がBタイプの場合、両国が共に行動を変えることにより、双方にとって優位な④に結果を変えることができるにも拘らず、相対的に劣位な①で終わることとなり、囚人のジレンマとよばれる状況に陥っていることがわかる。米朝間で確かな信頼関係が成立していない場合、双方が不満足な状況で膠着する事情を、この図はよく説明している。

 一方、交渉が繰り返し行われる場合、囚人のジレンマは一定の条件の下で回避可能であることが知られている。そのカギは、両国のとる戦略のあり方と、妥結までの時間的価値の減価率にあり、米朝関係の文脈では、しっぺ返し戦略に基づく交渉アプローチと、交渉における忍耐強さに相当する。すなわち、相手の行動に対応する形で協調と対立を粘り強く繰り返すことによって、〈安心供与〉と〈非核化〉の組み合わせ(④)が実現できると示唆しているのである。

 北朝鮮が、国際社会における地位の確立を究極のゴールとするならば、〈安心供与〉を引き出す手段としての〈非核化〉と、〈抑止〉に対抗する手段としての〈核保有〉、いずれを合理的選択とするのか?対するアメリカの合理性と併せて、米朝関係をゲーム理論から見ると、両国の合理性の所在と問題解決へ向けた忍耐強さを基に、現状を解釈し、将来を窺うことができる。

アメリカ / 北朝鮮

核保有

非核化

抑止

3 / 2A・(3B

1 / 4

安心供与

4 / 1

2 / 3A・(2B

佐藤 祐司(さとう ゆうじ)中京大学経営学部 教授

経営科学
慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了
博士(工学)
1963年生まれ

2019/04/18

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