地方銀行の合併・経営統合
地域経済にプラスになるのか

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小林 毅 教授

 近年、低金利政策による資金運用利回りの低下により地方銀行の経営環境が悪化しているといわれる。また、特に大都市圏以外の地域では、人口の減少など地域経済が縮小傾向にあることも地方銀行にとって悩ましい問題である。このような状況に対して、経費の節減や保険・投信販売の積極化による手数料収入の増加など、様々な努力がなされてきたが、決定的な解決策にはなっていないようである。そこで、一歩踏み込んだ手段として、地方銀行が合併や経営統合を選択する事例が増加している。東海地方でも、三重県の第三銀行と三重銀行が三十三フィナンシャル・グループを設立して経営統合した。


 このようなニュースが報道されると、銀行が合併や経営統合によって規模を拡大すればより効率的な経営が実現し、生き残りが可能になるなどという解説がなされることがある。これは本当だろうか。銀行業には少なくともある程度の規模までは「規模の経済」が存在すること、すなわち規模が大きくなるほど銀行経営はより効率的になる傾向があることが、これまでのさまざまな研究で示されている。ただし、このような研究結果が得られているからといって、合併や経営統合により規模を拡大すれば銀行経営の効率性が直ちに改善されるというわけではない。経営の効率化を実現するためには重複店舗の削減や従業員の再配置、組織の再編等様々な課題を解決する必要がある。銀行業の合併や経営統合に関する研究がこれまでいくつも行われてきたが、効率性が改善されなかったと結論付けたものも少なくはない。特に持ち株会社設立による経営統合の効果に関しては懐疑的な見方が強い。

 一方で、合併や経営統合により銀行の市場支配力が強まり、貸出金利の引き上げが可能になるとも指摘されている。実際、長崎県に本店を置く十八銀行と親和銀行が合併を企図したケースでは、融資シェアの拡大により競争環境が阻害されるとして公正取引委員会が債権譲渡による融資シェア縮小を条件に合併を承認した。やや意地悪い見方になるが、銀行の合併や経営統合は銀行経営を効率化するというよりむしろ顧客を犠牲にして銀行が生き残りを図る手段とも考えられる。

 だからといって、地方銀行の合併や経営統合が地域経済にとって好ましくないとは言い切れない。地方銀行の経営が利ざや縮小や地域経済の縮小により厳しくなっているのは間違いない。現在のところ、好景気を反映した信用コストの減少や有価証券含み益の増加などにより救われている部分があり、銀行経営の苦境が表面化しているわけではないが、この環境がいつまでも続くわけではない。一方、銀行が合併・経営統合により規模を拡大すれば、より多様なサービスが提供されることも期待できる。地域経済の維持・発展のために地元に地域金融機関の存在が不可欠であると考えるならば、その維持のために地域が何らかの形で相応のコストを負担することもやむを得ないのかもしれない。

小林 毅(こばやし たけし)中京大学経済学部教授

金融論

名古屋大学大学院修了

1969年生まれ

2019/04/04

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