男性が働かなくなった要因
ITによる労働環境の変化

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増田 淳矢 准教授

 経済学では、労働力率という指標が使われている。この指標は人口のなかで、労働状態にある人の割合を表している。若年層は学校に通学しているため、高齢者層は定年後働いていない層が一定数いるため、労働力率は低くなっている。また、女性の場合には結婚・出産・育児のため、男性よりも低くなっている。労働力率というのは主として女性の社会参画の文脈で使われることが多く、戦後女性の労働力率は一貫して上昇してきた。戦後の日本の社会では女性の社会進出の度合いを表す指標として女性の労働力率が使われてきた。

 では、男性の労働力率はどうであろうか。日本だけでなく、多くの国では男性は働くごとが当然とされてきた。これは工業化された先進国だけでなく、ほとんどの国で成立している。図は日本の男性の労働力率を示している。見ての通り労働力率は90%を超えており、日本でもほとんどの男性が働く意志を持っていることが分かる。この図を細かく見てみると2000年代以降一貫して減少していることが見て取れる。2000年と2018年と比較するとどの年齢階層でも2%程度減少している。つまり、100人のうち2人は何らかの理由で働かなくなったわけである。同時期の失業率の低下分が1%強であり、労働力率の低下率を下回っているわけで差し引きすると男性の求人数自体が減少していることが分かる。失業率が下がった理由はさまざまな要因があるが、男性が働かなくなったこともその一つである。

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 男性の労働力率の低下の要因については、さまざまなことが考えられている。近頃は男性でもイクメン等、育児や家事を行う人が増えているが、絶対数では少なく、今回の労働力率の低下の主要因ではない。この時期に低下した要因としてはIT化による就業構造の変化が挙げられるかもしれない。2000年代以降ネット環境の整備などによって、ネット上で投資を行うデートレーダーやYouTuberを初めとするネットで活動する人が増えた。彼らは今まで考えられているような働き方ではないため、統計では働いていないと見なされてしまう。このため、見かけ上の労働力率が低下したのである。男性の労働力率の低下というのは一見ショッキングであるが、働き方の多様化を示しているのかもしれない。

増田淳矢(ますだじゅんや) 中京大学経済学部准教授

経済統計学・数理統計学・計量経済学・時系列分析

神戸大学経済学研究科博士後期課程修了・博士(経済学)

1979年生まれ

2019/03/12

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