第13回先端研究交流会 戦略的研究3テーマを報告

 中京大学先端共同研究機構は、1月25日、名古屋キャンパスにて「第13回先端研究交流会」を開いた。今回の交流会では、「中京大学戦略的研究」について特集が組まれた。戦略的研究とは、中京大学の特徴及び強みを活かした組織的な優れた研究であり、かつ、中京大学が国際レベルでの卓越した研究教育の拠点となり得る学術研究を対象として、本学が認定した研究である。

HPIMG_3942.jpg

 会の冒頭、安村仁志学長と檜山幸夫先端共同研究機構長があいさつし、認定された3つの戦略的研究について、研究プロジェクトの担当教員が研究内容や今後の見通しを報告した。

 最初に工学部の長谷川純一教授が戦略的研究「デジタル・ヒューマニティーズプロジェクト:日本近代公文書自動解読システムの開発」について報告した。

 長谷川教授によれば、デジタル・ヒューマニティーズ(digital humanities)とは、人文科学と情報科学を横断する学術領域であり、従来の文系・理系という枠組みを取り払った新しい分野の学問として世界中に拡がりつつあるという。本研究は、日本近代公文書のほぼ全てが体系的に残されている雛形的存在とでもいうべき台湾総督府文書の「台湾総督府公文類纂」を題材に、日本の近代公文書の自動解読システム開発を目指したものであり、これを中京大学社会科学研究所と人工知能高等研究所の研究員が中心となって取り組む。社会科学研究所は、過去30数年にわたり、台湾総督府文書の調査・研究を進めており、そこで蓄積された知見を提供し、他方で、人工知能高等研究所は、文書の画像から手書き文字のみを自動検出するセグメンテーション技術や手書き文字の自動認識技術など、文書認識に関する各種要素技術の開発を担当する。

 長谷川教授は「現在、各行政機関等が保管している公文書の中の戦前期の文書の多くが近世古文書の流れを汲む近代古文書のため一般行政職員が解読するのは容易ではなく、そこに、近年の活字離れの進行により将来的には多くの公文記録が死蔵状態に陥る可能性すらあることから、歴史的公文書ともなっている近代公文書を広く一般の国民が利用できるようにするためには、手書き文字の自動翻訳システムの開発は喫緊の課題です」と結んだ。

長谷川教授.JPG hp來田教授.jpg
長谷川教授 來田教授

 次に、スポーツ科学部の來田享子教授が戦略的研究「スポーツ・デジタルアーカイブズ共同研究」について報告した。

 研究の背景として、オリンピックを例に「レガシー」が問われるようになったことを挙げ、スポーツの文化的資産を守っていかなければならない状況にあることが述べられた。

 スポーツの歴史を残す「スポーツミュージアム」は、スポーツの意義やレガシーを目に見える形にし、人々に伝える場としての大きな可能性がある。と同時に日本ではスポーツ文化の概念ははっきりしておらず、保管場所の不足、形に見えないトップアスリートの経験をどう残すかという課題がある。その解決のためには、スポーツ・デジタルアーカイブズのモデル構築が必要である。來田教授は、工学部瀧剛志教授、現代社会学部亀井哲也教授とともに、今秋オープン予定の「中京大学スポーツミュージアム」を研究成果の発表の場として研究を続ける。報告の最後に、本研究プロジェクトへの参加やアイデアの提案、研究ネットワーク情報の提供などが呼びかけられた。

 最後に、種田行男副学長、スポーツ科学部の荒牧勇教授、心理学部の高橋康介准教授および国際教養学部の渡邊航平准教授が戦略的研究「スポーツ嫌いメカニズムの解明とスポーツ適正提案システムの開発:スポーツモチベーション研究センターの設立」について報告した。

hpIMG_5862.jpg hp荒牧先生.jpg
種田副学長 荒牧教授
hp高橋先生.jpg hp渡邊先生.jpg
高橋准教授 渡邊准教授

 研究のゴールは「誰もが楽しく長く気軽にスポーツ参加できる社会」。そのために持続可能なスポーツ参加のための環境が必要だとして、筋・神経・脳・認知・心理からアプローチする。スポーツモチベーション研究センターを拠点に高橋准教授は認知・心理、荒牧教授は脳、渡邊准教授は筋・神経を専門に研究を進めるという。

 中京大学は本格的にスポーツを学ぶ、また習慣的にスポーツをしている学生から、全くスポーツをしていない学生までスポーツに関して多様性がある大学。報告では、「スポーツ科学部」と「その他学部」の学生にスポーツを続けた年数や辞めた理由などを調査し、比較した結果が紹介された。また、スポーツ参加への阻害要因として社会的な要因も考慮すべきではないかとの質問があり、これを踏まえ、社会科学を専門とする教員にもプロジェクトへの参加が呼びかけられた。

 総合討論では、総合政策学部の佐道明広教授が「戦略的研究に発展できるものとして、総合大学として複数の学部にまたがって研究していること、また中京大学として『ふさわしい』テーマであることがあげられます。より発展させ、研究を増やしていくには何が望まれるでしょうか」と問いかけた。各教員からは、中京大学のブランドとなる研究を創造するには、当該研究者1代限りで終了するものではなく、それを継承する若手研究者の育成を伴うものでなければならない、などの意見が挙がった。

 報告会後にはサロンド・ヤマテで懇親会が開かれ、発表者や参加した教職員らが交流した。

2019/02/21

  • 記事を共有