音楽理論による電子透かし
気づかない音で著作権を保護

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村田 晴美 講師

 スマートフォンの普及にともない、誰もが簡単にインターネットにアクセスするようになった。情報技術の深い知識を持っている人でなくとも、動画・画像・音楽などのデジタルコンテンツを手に入れたり、自らが作成したコンテンツを配信したりすることができる。その反面、違法なコンテンツをダウンロードしてしまうユーザや、著作権保護のかかったコンテンツを違法に配信してしまうユーザが増加してきている。このようなデジタルコンテンツの不正使用を抑制するための情報技術が強く求められている。

 そのひとつが、「電子透かし」である。電子透かしとは、著作権情報などのディジタル情報を人が知覚できないようにデジタルコンテンツに付加する技術のことであり、この付加する情報のことを透かしとよぶ。透かしというと、お札を思い浮かべる人も多いだろう。お札の中央に透かしを入れることによって、お札が本物であるかどうかを判別することができる。このディジタル版が電子透かしであり、特に、音楽を対象とした電子透かしのことを音楽電子透かしという。音楽電子透かしでは、透かしを付加することにより楽曲の音質が劣化してはいけないこと、そして、MP3などの情報圧縮を施した場合や、ライブなどの際に音楽をマイクで録音した場合であっても、透かしが改ざん・除去されないことが求められている。

 従来の音楽電子透かし法では、透かしを付加したことを如何に知覚されないようにするかということを目標としている。しかし音楽の場合は、透かしを付加したときの変化が耳に聴こえたとしても、音楽として違和感のない変化であれば、「人が知覚できないように」という要件をクリアできそうである。例えば、元の楽曲で演奏されている音に対して、協和音の関係になる音を新たに加えることで情報を表現したとする。元の楽曲から変化しているが音楽としては違和感のない楽曲となり、元の楽曲を知らない人にとってはごく普通の楽曲に聞こえるはずである。このような視点から音楽理論に着目し、新たな音楽電子透かし法の可能性について研究している。最初のころは、研究の成果を発表する機会があると毎回のように、「元の楽曲に別の音を付加することで著作権を侵害しているのではないか」という質問が出てきた。確かに元の楽曲に含まれない音を付加するため、作曲者の意図しない曲になってしまう可能性もある。もちろん作曲者の許諾を得る必要はあるが、一般的に楽曲は編曲されることが多いので、編曲の過程としてディジタル情報を付加することができれば問題がないだろう。

 音楽理論を利用した音楽電子透かし法にはまだまだ課題が多いが、将来的には作曲や編曲などの著作権保護以外を目的とした利用方法についても考慮し、電子透かし技術の可能性を今後も模索していきたい。

村田 晴美(むらた はるみ)・中京大学工学部講師

音響信号処理、情報ハイディング

大阪府立大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)

1985年生まれ

2018/11/01

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